まりぃくりすてぃ

ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかたのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

5.0
心の温かいエイドリアン・シェリーが脚本して監督した美事(みごと)な傑作! ポップで繊細で深いです! 暴力反対! ハル・ハートリー(マリ略/ハルトリー)の『Trust』のアンナ役から始まった彼女の “人間力” 表現の、17年後の最高到達点(そして悲しすぎる終点……)がこれ。「愛や信頼を大切にし、思いやりを忘れない。弱い者いじめの暴力を受けても、八つ当たりはしない。運命は過酷でも、抗うこと・筋を通すことを諦めない」という『Trust』のアンナ像、じつはエイドリアン自身と重なるところ多かったんだろうな。ラスト曲 Baby Don’t You Cry の作詞も彼女だよ。娘役は彼女が産んだ娘だってさ。

物語 96点以上
俳優選び 100点
撮ってくための台本と演出 100点
各俳優の演技 100点
助演者としての愛されエイドリアン 101点
(自分を知り抜いてるエイドリアン!)

いくらか演劇的にキャラ立ち優先演技を皆がしてる中、「信じがたいようなDV夫の言動」が「不倫キスの速度」とともに格別にデフォルメ(現実離れ化)されてて、私たちは必要以上に深刻にはヒロインの苦悩に直結しなくて済む。いや、分娩室での悪い冗談の極致とか、もう、もう!
これ笑えないっていう人も世界にはゼッタイたくさんいそう。21世紀の今なお、妻子への過剰関白ぶりで文明人を唖然とさせる狭すぎ男性はうじゃうじゃしてるみたいだから。(例えば、イランの女性たちとアメリカの女性たちが仲良く一緒にこの映画観てハグし合う図、とか空想しちゃう。)この映画は全女性の味方だ!

ところで、私、近所の畑で毎年今の時期に安く買えるブラックベリーをこのところぱくぱくしてる毎日なんで、ベリー類ふんだんに出てきたのがタイムリー。。

で、パイ(タルト)作りの近撮から始まり、徹底して女性たちの心と生活と視点に寄り添ったためか、ロングショットがほとんどない。ラストカットでやっと風景が役割もって使われる程度。主要な約8~9人の中だけで全展開するわかりやすさからも、TVドラマ的。
作品としてそういう “小ささ” は何の過不足も生んでないが、ただ、エイドリアンが物語で画を満たしてゆくことでまずは頭一杯で、遠景や遊びカット等の “余白” を私たちに委ねる余裕まではなかったのだということかも。それにハルトリーのオフビート感(クギヅケ要素にもなるゆったりした癖っけ)と比べて全然オンビート(コミカルだけど癖は案外なく、はるかにポップ)。そこらへん、作風がどう変化しえたかエイドリアンにもっともっと監督業を続けさせてあげたかったなと惜しむ。惜しむよ。

名言いろいろあり。「一秒も人生は交換できないわ」
夫の生い立ちにはきっと何かがあったはず。
医者(ネイサン・フィリオン)甘く美し。
“ストーカー” のオギー(エディ・ジェイミソン)に心地よく泣かされるとは。。

ラストにかけての、「その救いしかないか……」のイベント感(☜分娩室)にはゾワゾワとドキドキを経て変化球を投げてもらえて溜飲下がったけど、そのあとの大団円を予定調和(悪い意味でポップだ)と思わないでもなかった。でも、『Trust』『The Unbelievable Truth』で始まり約17年間働いて『Waitress』で終わった一つのアメリカ映画界の良心に、私は減点を贈らない。


親愛なるエイドリアン・シェリーさま、「あなたが日光をくれたから私は喜びをあげたい」のだけど、あなたはもういません。だから私は私で、ほかの人たちに光をあげられるよう生きればいいのでしょうね。温かく誠実で豊かな作品を本当にありがとう。。。。


[つたや]