Ricola

月光の女のRicolaのレビュー・感想・評価

月光の女(1940年製作の映画)
3.5
嘘偽りない月は女を照らす。彼女をまっすぐ見つめている。いくら人に嘘をつくことができても、その眩しさには耐えきれない。

サマセット・モームの『手紙』が原作であり、秘密を抱える女性レスリーをベティ・デイビスが演じている。


レスリーの悪女ぶりというか、二面性を、周囲の人間はなかなか見破ることはできない。それでもレスリーを照らす月は、彼女を浮き彫りにし、そのことを彼女は恐れている。
レスリーの顔が影で覆われていく。
雲が動いてゆき月が隠れたと思ってもまたすぐに雲が移動して月が彼女の顔を照らす。

相手に背を向けて話すこと。
使用人に向かって夫を呼ぶ際に指示するときも、証言する際にも彼女の顔は見えない。後ろめたさを抱えているであろう彼女の顔を極力見せないことで、彼女の心情を読み取ることのできないこの構図が、彼女の得体の知れなさをはかるようだ。
また、弁護士と取引をしている際の彼女の鬼気迫った表情に、弁護士の影が覆いかぶさるシーンがある。彼は自分の正義に背いてまでして彼女の話を受け止めるのだが、その際彼女を守るといった内容の彼のセリフが逆に彼女には皮肉に聞こえたようで、嘘を突き通すことに彼女は苦しさを覚えるようである。この弁護士の影は特に、月が雲影に隠れたり出てきたりする動きの役割と似たものを担っているようだ。

レスリーの愛憎こそが彼女自身を狂わせる。そして彼女を見守る不変の存在の月だけが、彼女の心の内にまで浸透することができるのだ。
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