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アフリカの女王のKuutaのレビュー・感想・評価

アフリカの女王(1951年製作の映画)
3.4
ディズニーランドのジャングルクルーズの原型となった作品。タイトルの印象とは全く異なる、川下りアドベンチャー+ラブコメの娯楽作だ。

アフリカで宣教師をしていた英国人のローズ(キャサリン・ヘプバーン)。第一次大戦が勃発し、滞在中の村がドイツ軍に焼き払われたため、カナダ出身の飲んだくれ船長チャーリー(ハンフリー・ボガート)のボート「クイーンオブアフリカ」に乗って脱出する。川の激流や虫の襲来、ドイツ軍の攻撃を避けながら、2人は恋に落ちる…というお話。

名作と名高い今作だが、話運びはかなり緩い。撮影よりもロケ地のアフリカで象狩りに熱中していたという監督のジョン・ヒューストンのせいなのか、色々とネジが外れている印象だ。名優2人の演技と、名カメラマンジャック・カーディフの撮影でなんとかまとまっている。

正直、話としては吊り橋効果に煽られたバカップルにしか見えず、重厚なドラマ性は感じられらない。音楽も過剰な印象で、悪い意味で「ジャンル映画」的にアクシデントが羅列されている(2人揃って絶望に沈むが、カメラは上昇して観客に希望を示す、という終盤のカットはカッコ良かった)。

世間知らずの宗教家であるローズのキャラがかなりぶっ飛んでいて、それ自体は楽しい。「魚雷は作れますか?」「何に使うんだ」「戦艦の横腹を狙うのよ」。激流を突破した興奮を「礼拝中の兄に聖霊が降りてきて以来」と表現するシーンもなかなかに狂っている。

また、何よりも特筆したいのがオープニングだ。聖歌を宣教先の住民に歌わせているのだが、一切、どのフレーズも音程が揃っていない。これほどまでにぐっちゃぐちゃな歌を聴ける映画も珍しい。今作はアマプラで見放題なので、冒頭3分だけでも暇な方はぜひ見て頂きたい。

以下、深読みいろいろ。
ローズは明らかにエリザベス女王、ないし英国のメタファーだろう。彼女はドイツ軍の船を撃墜すべく、危険地帯に踏み込む事を提案する。「ローズとチャーリーは第一次大戦の詳細を知らない」との描写が序盤にあるが、それでもローズは1人の英国人として誇りを持って戦おうとする。国威発揚映画という解釈もできる。

すっかりアフリカに馴染んでいたチャーリーだが、やがて髭を剃り、ネクタイを付けた紳士となり、ローズに協力するようになる。

チャーリーの母国カナダは元々英領であり、独立後もコモンウェルスの一員である。言い方は悪いが、独立し、野蛮化したカナダを英国女王が「再教育」し、ドイツに反抗させる話のように見えてしまう。チャーリーが動物の真似を繰り返し、彼が怒るとジャングルから猿の鳴き声が聞こえてくる演出も意図的だろうか。ハンフリー・ボガートがカサブランカのイメージとは全く逆の朴訥としたおっさんを演じ、キャリア唯一のオスカーを取ったというのも面白い。

アフリカ人との心の交流ではなく、「理解し合えるはずだが独立して理性を失った白人」をパートナーに選ぶ所に、英国のコモンウェルス諸国に対するねじ曲がった優越感を読むことも出来るだろう。

ジャングルクルーズのお兄さんがアトラクションの締めに「我々はこれから最も危険なエリアに入っていきます…それは文明社会です」と言うのが好きで(しばらく行ってないがこの台詞は残っているのだろうか)、今作にも期待していたが、そういった批評性は残念ながら見受けられない。

そもそも「神も味方もいない地獄」を作るためにアフリカを舞台に選ぶ時点で、時代が時代とはいえアフリカにかなり失礼な感じはする。

なお、ジャングルクルーズは新作映画の公開も決まっている。勝気で美人な英国人代表としてエミリー・ブラントを選んだ事は、今作のキャサリン・ヘプバーンを踏まえてもなかなかの慧眼に思える。68点。
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