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蝶の舌のろのレビュー・感想・評価

蝶の舌(1999年製作の映画)
4.3
「ベッドも鏡も全て空しいもの。要するに人間すべて孤独だ」


スペイン映画2本目。
主人公の少年モンチョの可愛さにうっとりしていたら、後半30分ぐらいで急に戦争の波が押し寄せてきました。とても印象深いラスト。やられました。


モンチョは小学校に入学。なかなか周囲に馴染めないモンチョだったが、担任のグレゴリオ先生のおかげで打ち解けていく。様々なことを教えてくれる先生。しかし徐々にスペイン内戦の影が忍び寄ってくる...


主人公のモンチョがとにかく可愛い!
兄アンドレスの所属する音楽団に参加。シンバルを鳴らしたり、旗を掲げたり。
音楽にノリノリでリズムをとったり。
ベレー帽姿のモンチョ。走ってくるモンチョ。海賊コスプレをするモンチョ。緑の瞳を輝かせながらワクワクするモンチョ...。
子どもが出てくる映画っていいなぁ~と思いました(笑)


「蝶に舌があるのを知っているか」
グレゴリオ先生はいろんなことを教えてくれます。詩や人種、そして先生の大好きな自然のこと。
「まともな本を読むと凍え死ぬことはない」
そう言ってモンチョに「宝島」を渡してくれる。
差別も体罰もしない。
子どもたちの自由を尊重する素晴らしい先生です。

そんなグレゴリオ先生とモンチョのやり取りの中で特に印象的な場面。
「人が死ぬと一体どうなるの?」
モンチョの母は「善人は天国へ、悪人は地獄へ行くんだ」と言い、モンチョの父は「最後の審判で金持ちは弁護士を雇う」と言います。
先生が問う。「君はどう思う?」
「ぼく、なんだか怖いよ」
すると、先生は優しく言います。
「あの世に地獄などない。憎しみと残酷さ。それらが地獄のもとになる。人間が地獄を作るんだ」


スペイン内戦が勃発。
共和派と思われないように新聞や党員カードを焼き払い、教会へ通う。共和派を貫いた人たちは迫害されながら捕らえられていく。

物語のラスト。
捕まった共和派の人たちがトラックに乗せられていく。
村の人たちは「アカ!人殺し!」と叫びながら見送る。

捕まった人の中には、モンチョの家族がお世話になった人の姿も。お父さんもお兄さんも苦しい表情になります。
「なんで自分たちが仲間を迫害しなければいけないんだ!”アカ” ”犯罪者”なんて叫ばすなよ!」恥ずかしさ、悔しさ、情けなさ。モンチョのお父さんの顔が歪みます。
差別用語を叫びながらでしかその人たちを見送ることができない辛さ。モンチョが「ティロノリンコ!蝶の舌!」と叫びながら石を投げるシーンは涙が出ました。


昨日の仲間は今日の敵。関係性を1日で変えてしまう。
戦争は恐ろしい。

モンチョたちはこれからどうなってしまうのだろう。
余韻をもたせ、考えさせられるラストでした。


「今、人生の秋を迎えどんな希望を持てるのか、実は少し懐疑的です。しかし私は信じます。もし我々に続くひとつの世代が自由なスペインに育つことが出来たら、もう誰もその自由を奪えないことを。誰もその宝は盗めないのです」
ろ