ろ

ソウルフル・ワールドのろのレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
5.0


この世に生まれる準備ができたソウルたちに与えられる”きらめき”。
それは生まれたあとも、生きていくために必要なものなのに、私たちはたびたび見失う。

何か映画を観るたび「よし、私も楽しんで生きよう」と思い直す。
災害に見舞われるたび「私だっていつ死ぬか分からないんだから毎日を大切にしよう」と誓い、新しい年を迎えるたびに「今年こそは自分らしく生きる」と決意を新たにする。しかし日々のいらだちや積もり積もった疲労感に押し流されかき消され、瞬く間に風化するお決まりのパターン。そうして地下鉄の乗客たちのようにうつろな目をしながら仕事に追われ、泥のように眠る。そんなふうに私たちをうんざりさせる一方、日常にはきらめく瞬間がある。

人は何かを成し遂げるために生まれたのではないし、生きる目的を抱いて生まれる人なんていない。
その代わり初めてピザを頬張ったときの感動は忘れられないし、偶然耳にした音楽の心地よさ、人と分かり合えた安堵と喜び、ゆるやかに舞い落ちる木の葉の美しさ・・・それらはすべて、今まで何にもときめかなかった22番がそっとポケットにしまいこんだ宝物だった。
そのときめきに触れたジョーは、自転車を走らせながら仰いだ青空を思い出す。お父さんと初めて聴いたレコードプレイヤー。ビルの屋上で浴びたまばゆい花火。自分にはピアノしかないと信じて夢を追い続けてきたけれど、ほんとうはもっと近くに大切なものがあったのかもしれない。

サックスがすきなくせにやめたいとふくれつらだった少女は、また来週レッスンにくるねと去っていく。
獣医になる夢を諦めて床屋になったお兄さん。
お母さんはお父さんのせいで苦労したと言いながら彼のウールのジャケットを大事にしまっている。
すきだからこそこのまま続けるか悩むし、ときにすきなものを上回るほど大切なものに出会う。思ってもみなかった方へ進む人生。だから生きる意味なんて見出さなくていい、生きる目的なんて探さなくていい。ただジャズのように即興で、流れに身を任せていれば、ユングの声もリンカーンも、あなたを不安にさせる声たちは、いつか砂のように消えていく。



( ..)φ

ああほんとにピートさんがつくった映画なんだな、としみじみした。
特に走馬灯が駆け巡る場面は、カールとエリーの半生やライリーの思い出みたいでとにかく涙がとまらなかった。

一度天国への階段をのぼりかけたジョーが階段から落っこちていくシーンはめちゃくちゃ2001年宇宙の旅で、そうだったあれも何度も生まれる話だったなと思いながら勝手にツァラトゥストラはかく語りきを脳内再生した。

インサイドヘッド2は休みを取って初日に行きたい。
ろ