ふき

007/消されたライセンスのふきのレビュー・感想・評価

007/消されたライセンス(1989年製作の映画)
4.5
ティモシー・ダルトン氏の二本目にして、最後のボンド作品。

異色作と言われることが多く、その理由は「ダーク」で「ハード」とパッケージに書かれているが、むしろ「プライベートで戦っているから」と表現した方が相応しいだろう。
基本的には英国諜報部の後ろ盾と大義名分があったボンドが、本作では個人的な感情、復讐心から戦いに飛び込んでいく。アクションが「ダークでハード」になることに、ボロボロになってまで敵を追い詰めることに、ちゃんと理由があるのだ(単にダークでハードなボンドなら初期作品では珍しくない)。“007”を捨ててでもなにかを貫こうとするボンドが、普段は抑制している人間的な面を垣間見せる貴重な一作だ。そういう意味では、本作でも触れられる『女王陛下の007』に近い。「一回限りの禁じ手」という点も同様で、前作以上に人気が出なかったのも頷ける。
とはいえ何だかんだ笑えるシーンも多いし、爆発は過剰なレベルだし、空中と水中のアクションには新しいアイディアもあるしと、面白い場面もてんこ盛りだ。ロバート・デヴィ氏演じる騙されてばかりのサンチェスと、ベニチオ・デル・トロ氏演じるチンピラ感の拭えないダリオと、敵役もいい味を出している。

不満があるとすれば、『消されたライセンス』というほど英国諜報部から離反したデメリットが描かれないことと、本作でこれをやるなら前作はもう少しスカッと爽快なボンドを見せて欲しかったことか。前者は、たとえば00ナンバーを持つ追っ手などは現れないし、中盤でQが合流してからは完全にいつもの流れに乗ってしまう。後者は、前作からタフでワイルドな原作に近いボンド像を目指してたからだろうから、落差が弱くなったのは否めない。

とはいえ「ティモシーさんはかっこいいけど、グレン監督とメイバウムさんたちの脚本だと、ベースはいつものボンド映画になるよね」と前作で甘く見ていた私を綺麗にぶっ飛ばした、シリーズで五本の指に入るお気に入り作品だ。
本作で退陣する多くのスタッフキャストたちの、ちょっとどうかと思うレベルの全力が見れると言う点でも、間違いなく必見。
ふき

ふき