この間は溝口健二監督作品を立て続けに観た。今回は小津安二郎監督を連チャンで。
まずは小津監督のトーキー第一作『一人息子』。戦後の華やかな作品群とは異なりこじんまりとした映画だが良作。
ちなみに本作の録音技師の茂原英雄氏は主演の飯田蝶子さんのご主人その人である。
小津監督がトーキーの時代になってもすぐにサイレントから移行しなかったのは、当時の主流だった土橋式トーキーではなく、親友である茂原氏の茂原式トーキーの完成を待ってたからだという。
その待ちに待ってた作品が本作である。
物語は信州の農村からはじまる。
女手ひとつで一人息子を育てたお母さん(演:飯田蝶子)は貧乏のため当初は息子の東京への中学進学に反対していた。
しかし、担任の先生(演:笠智衆)からの後押しもあり、息子の進学を許すことにした。
月日は流れ、大学も卒業して東京で就職した息子(演:日守新一)に会おうと母は上京する。
さぞや立派な生活をしているだろうと想像していた母だったが現実はそう甘いものではなかった……。
子供に期待する母とその期待に応えることができず悩む子供の姿を描いた家庭ドラマだった。
やらないで後悔するよりはやって後悔した方がいい。この言葉に多くの方が賛同すると思うが、実際果たしてそうだろうかと本作は疑問符を投げ掛ける。
かつて息子のことを後押ししてくれた先生も息子と同じ時期に大志を抱いて上京するが、結局は今じゃ豚カツ屋のご主人である。
後年の『秋刀魚の味』では東野英治郎が元教師のラーメン屋だったが、過去に代用教員をしていた小津監督だけあって、落ちぶれた教師の描写が容赦ない。
世の中は甘くはない。その厳しさを描きながらも人間としてあるべき姿を提示した本作に心から好感が持てた。
本作はYouTubeであがっているので簡単に視聴できる。だけど良かったから今度DVD買っちゃお。
■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:池田忠雄/荒田正男
音楽:伊藤宣二
撮影:杉本正次郎
公開:1936年9月15日(日)