ほーりー

エルマー・ガントリー/魅せられた男のほーりーのレビュー・感想・評価

3.9
【やっぱり伝道師って怪しい職業だよね】

さて、またまた期間が空いてしまいましたが、久しぶりにレビューをアップ。

今回取り上げるのはバート・ランカスター主演、リチャード・ブルックス監督・脚本の『エルマー・ガントリー』。

原作はアメリカ人初のノーベル文学賞受賞のシンクレア・ルイスで、1920年代に熱狂的なムーブメントになった宗教復興運動をシニカルなタッチで描いた大作映画である。

恐らく当時実際にあった出来事や醜聞を盛り込んでいると思われ、近代史のテキストとしても本作は参考になるのではなかろうか。

口八丁手八丁の旅回りのセールスマンであるエルマー・ガントリー(演:B・ランカスター)は、酒と女に明け暮れていたが、ある宗教団体の主宰者である美しきシスター・シャロン(演:ジーン・シモンズ)に一目惚れしてしまう。

彼女をモノにしたいと考えたガントリーは、この団体に近づき伝道活動の手伝いをするようになる。

かつては神学校に通っていたガントリーだけあって(そしてそこの神父の娘に手を出して退校される始末)、聖書の一節を引用するのはお手の物。

またお得意のセールストークを活かし、農民たちの不安を煽るような説法でどんどん信者を開拓して、団体の中心的な地位に上り詰める……というあらすじ。

何と言っても、主演のバート・ランカスターが濃ゆい。

何しろ同年の『アパートの鍵貸します』の我らがジャック・レモンをくだしてオスカーに輝いただけあって、本作でのバート・ランカスターは個性と才能が炸裂している。

個人的には『アパートの~』のジャック・レモンの方が大好きなんだけどさ、だけどレモンに本作内で見せたあのスライディングができるかと聞かれれば言葉に詰まる。

またランカスターは序盤で野太い声で賛美歌を歌うが、これが滅茶苦茶イイ声で思わず聞き惚れてしまう。

本作のランカスターの演技はかなりオーバーアクトで臭いのだが、それがかえって決して他人に本心を見せようとしないこの怪人物の雰囲気にピッタリだと思った。

さて、そのほか部分。脚本家出身のブルックス監督だけあってストーリーはよく出来ていて、パワフルなやり方でのし上がるガントリーの前に次々と宿敵のような人物が立ちはだかり、彼が持ち前の才覚によって一人一人くだしていくのが面白かった。

最初はこの宗教団体のボスであるディーン・ジャガー、次にピュリッツァー賞受賞の新聞記者アーサー・ケネディ、そしてガントリーが若き日に手を出した神父の娘で今では娼婦に身をやつしたシャーリー・ジョーンズである(みんな巧い役者ばかり)。

最初はみんな嫌な奴(正確にいうとアーサー・ケネディは序盤いい人そうに見えて、中盤になって本性を見せる)なのだが、ガントリーのキャラクターに次第に惹かれて感化されていくのがストーリー的に(またそれを表現した役者の演技力も)上手いと思った。

そして本作のもう一人の主役であるジーン・シモンズ(ちなみにこの年にブルックス監督に結婚)に触れないわけにはいかない。

ガントリーが一発で見惚れるだけあって、シモンズの神々しい容貌はまさに聖女に相応しい。その反面、目まぐるしい変化についていけず、徐々に神経衰弱になっていく脆さも併せ持つキャラクターを演じている。

ガントリーにも体を許すようになり(恍惚な顔でハイヒールの中の砂を捨てる場面が印象的)、また自分が本当に神の使いと思い込むようになるなど、単なる美人女優にとどまらない、幅の広い演技を披露している。

で、本作を久しぶりに観て気づいたのだが、ジーン・シモンズの声がオードリー・ヘップバーンに似ていた。特に張った時のちょっとかすれた声の感じがそっくり。

元々『ローマの休日』はジーン・シモンズにもお鉢が回っていたそうだし、もし同い年のオードリーが映画界に現れなければ、ジーン・シモンズ、もう少し作品数に恵まれ、知名度もぐっとあがっていたのかもしれない。

■映画 DATA==========================
監督:リチャード・ブルックス
脚本:リチャード・ブルックス
原作:シンクレア・ルイス
製作:バーナード・スミス
音楽:アンドレ・プレヴィン
撮影:ジョン・アルトン
公開:1960年7月7日(米)/1961年4月20日(日)
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