アルコール依存症の恐ろしさを全面に描いた作品第一号はビリー・ワイルダー監督の『失われた週末』ではあるが、依存症とその治療のリアルな描写に関してはこの『酒とバラの日々』の比ではないと思う。
なぜならば本作の監督ブレイク・エドワーズも主演のジャック・レモンも当時アルコール依存症だったから描写が真に迫っているのだ。
しかし、ブレイク・エドワーズとジャック・レモンの組み合わせと聞いてコメディを期待してこの映画を観てしまった人は本当に不運だと思う😅
広告代理店に勤める主人公ジャック・レモンが、仕事のストレスから深酒をするようになる。彼を不憫に思って一緒にお酒を付き合っていた奥さん(演:リー・レミック)共々、アルコール依存症になってしまうというあらすじ。
『失われた週末』は回想形式なので冒頭から主人公はアルコール依存症なのに対して、本作は二人の出会いから彼らが酒に溺れるまでを丹念に描いている。
その為、真に依存症の怖さを感じるのが映画の中盤に入ってから。じゃそれに至るまでは退屈かと言えばそうに非ず。
前半は主人公が勤める宣伝業界について痛烈に皮肉っている。
クライアントの接待のために人間性を犠牲にするような仕事ばかりで、やはり心を病みやすい業界なんだろうなとこの作品を観るとつい思う。
それじゃ病まない業界が他にないかって言えば、他もどっこいどっこいって気がするがの。
それで二人の暮らしが完全に酒とバラの日々になり、深酒をしては事件を起こしてしまう。
特に植木鉢の中に隠していた酒を探そうと、義父の温室で錯乱状態になるレモンの演技が凄まじい。
それに続いて、強制入院させられたレモンが禁断症状に苦しむシーンは、あまりに役に入り込みすぎて監督が撮影をストップさせるほど、この時のレモンの顔は完全にイっちゃっている。
一方、レミックはレモンのようなエキセントリックな演技ではないが、酒を手に入れるためには自らの体を売るまで落ちぶれた女をいかにもリアルに演じている。
しかも一度は克服したかのように見えて、再び酒の誘惑に負けてしまい元の木阿弥となる。
これを何度も繰り返して描かれるので観ていて心が段々ツラくなっていく。
ラストも暗く救いのない内容なのだが、そこはブレイク・エドワーズ監督だけあってかあまりにも悲惨にならないようにセーブした演出で好感が持てる。
■映画 DATA==========================
監督:ブレイク・エドワーズ
脚本:J・P・ミラー
製作:マーティン・マヌリス
音楽:ヘンリー・マンシーニ
撮影:フィル・ラスロップ
公開:1962年12月26日(米)/1963年5月3日(日)