茶一郎

インフォーマント!の茶一郎のレビュー・感想・評価

インフォーマント!(2009年製作の映画)
4.1
 まさか『ボーン』シリーズで最強の男を演じたマット・デイモンが、もはやウディ・アレンにしか見えないお馬鹿な自称スパイを演じるとは。今作『インフォーマント!』は、自身がCEOを務める会社の価格協定をFBIに密告した実在するチクり屋(インフォーマント)を描いた作品。

 「007より2倍賢いから俺は0014だな」という劇中のギャグセリフ(本人はいたって真面目)の通り、ソダーバーグ監督は主人公の告発を過去作『エリン・ブロコビッチ』のようにヒロイックに描かず、ダメダメ告発屋による『007』としてコメディとして描いています。監督の新作『ローガン・ラッキー』も劇中で、主人公の地味な強盗の様子を「オーシャンズ・「セブン」・イレブンだ」と揶揄したソダーバーグ監督でしたが、この『インフォーマント!』のパロディの姿勢はその姿勢と重なります。
 
 しかし今作『インフォーマント!』、中盤までその余りにも間抜けな主人公のスパイ行動を笑わる一方で、後半は古典ホラー『回転』を筆頭にするようなあるジャンルに変容し、仰天の展開を見せるのですから侮れません。
 コメディから人生を「嘘」で塗り固めた男の悲劇へ。実にソダーバーグ監督は、長編デビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』、長編三作目『わが街セントルイス』など、今作の主人公のような「自分に嘘を付く人物」というモチーフを描き続けているという事も特筆すべきでしょう。「嘘」についての作品を多く作ってきたソダーバーグ監督と実在のチクり屋の悲劇が今作で奇妙にも重なりました。

 かのチャールズ・チャップリンは「人生はクローズアップで見れば悲劇。ロングショットで見れば喜劇。」と言いましたが、その言葉の通り、観客は喜劇からもはや笑えないほどの悲劇を目の当たりにします。そして、この悲劇に一度共鳴してしまえば、史上最低の主人公だってどこか「愛おしく」見えてくる。
 今作『インフォーマント!』は、とても愛おしい悲劇として記憶に残ります。
茶一郎

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