Ricola

山河遥かなりのRicolaのレビュー・感想・評価

山河遥かなり(1947年製作の映画)
3.8
戦後の混乱の中、この感動的な作品は希望の光のように思われただろう。

子どもの健気さと周囲の人々の優しさに心があたたまり、涙なしでは観られなかった。


戦災孤児、それも収容所から生き残った子どもたち。
皆疲れ切った顔、怯えた、疑いの眼差しを大人たちに向ける。
主人公の少年のカレルに至っては、母親と引き裂かれたことのショックのあまり言葉を発せなくなってしまっていた。

計り知れない子どもたちの抱えている傷に、前半では胸が痛むばかりであった。
食事をするのも怯えながら、移動するのに車の中に乗ることも拒否する…。
子どもの純粋すぎるがゆえの正直な反応を見て、ここまで彼らを追い詰めたものへ改めて憤慨した。

この時代のアメリカ映画で、戦争によって壊された街並みがそのまま映され、使われていることに驚いた。
ドイツでロケーション撮影されたそう。
まだガレキの山のような崩壊した街を観るだけで、心が苦しくなる。 

モンゴメリー・クリフト演じる心優しいアメリカ人青年のラルフに会ってから、カレルは表情も言動も好転していく。
彼の純粋無垢さはそのままだが、徐々に本来の子どもらしさを取り戻す彼の演技が仰々しくない。だからこそよりカレルに対して気持ちを入れて観てしまう。

ラルフとカレルの、親子のような兄弟のような関係性が微笑ましくて、ラルフのカレルへの愛情に嬉しくなる。

ラルフ以外にも心優しい人々の存在が、この作品の暗い重いテーマをあたたかく照らしてくれる。

正直、ナチスによって苦しめられた少年をアメリカ人の青年が救うという設定は、当時の戦後アメリカの戦争への責任逃れとともに、人々への印象操作にも感じた。
そこだけがどうしても引っかかってしまった。

しかし親子の絆、運命とめぐり合わせ、人々の縁に感謝し、世の中に希望を見いだせる、感情を揺さぶられる。
お涙ちょうだいなところは否めないが、それでもこの場合はそれくらい盛り上げても構わない、と思えるラストだった。
Ricola

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