shibamike

バルカン超特急のshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

バルカン超特急(1938年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

「フォフォフォフォフォ」
こんばんは、バルタン星人です。

1938年公開当時、映画がまだまだ娯楽の階段を駆け上がっていた時と思う。当時の観客はこの映画を観て度肝を抜かれただろうなぁ、と想いを馳せる。中盤以降は「映画好きで良かった」感が自分の内から溢れだす。

物語は列車休行の連絡が待合所に入るところから始まる。ミニチュアセットが可愛くてGood。クリケットを愛する二人組の英国紳士。うら若き乙女三人組。怪しい男女のカップル。謎の騒音男。「政治で国を判断してはダメよ」と語る家庭教師の貴婦人。それぞれがホテルで一夜を過ごす中、表にいたギター弾きが怪しい影に命を奪われる!(カッコいいんだ、これが!)サスペンスが静かに始まる。

翌日、一行はロンドン行きの列車に乗車するため停車場へ向かう。
若さに任せて遊びの限りを尽くし、あとはもう結婚しかすることがないわ、と分かった風な口を聞くアイリスが貴婦人に駆け寄った瞬間、頭上の鉢が何者かによって落とされ、アイリスは頭部負傷。…今思うとこの時点で貴婦人は嫌な予感を感じていたのであろうか。サスペンスは徐々に加速をつける。

いよいよ列車出発進行!茄子のお新香!老人のオシッコ!死刑執行!アイリスは貴婦人から看病を受け、何とか回復。二人は食堂車で親睦を深める。「私はアイリス。」「私はフロイです。(列車轟音!)」「え、何て?」「(窓に指で)FROYです。」この伏線良すぎ。今、思い返してもぞくぞく。
客室でしばしまどろんだアイリス。ふと目を覚まし、客室を見回す。見慣れた客ばかり…あら?フロイがいないじゃない?ここでサスペンス全開!乗客が悉くフロイのことを見てもいないし、知らないと言うのである。「ヒッチコックやりやがったぜ。」と自分は痺れました。

昨今の衝撃ラストの映画を何本か観ている人であればオチは何となく察しがつくと思うが、それにしてもお見事と思った。「こりゃ、面白いわ」と感服いたした。

フロイ探しを見ていて思ったのは、フロイという貴婦人がいないというのも他の乗客にしてみれば所詮他人事だし、多くの人は面倒事に巻き込まれたくない。それよりも自分の状況(不倫やクリケットの試合)を優先させると思う。ヒッチコックは本当にこういう心理描写がニクい。
誰も自分の言うことを信じてくれないアイリスを見ていて自分は冤罪事件の容疑者にダブって見えた。「脳震盪による迷いだ」と無理矢理納得させられるのなんて刑事に自白強要されているのと変わらない。

アタシがおかしかったのかしら、とフロイのことをあきらめかけたアイリスが食堂車窓のFROYという文字跡を見て「あっ!」と思う演出が素敵。映画館で近くにいたおじ様が思わず「そうだ!」と呟いていたもの。

魔術師の小道具やらのシーンはサービスシーンっぽくて微笑ましかった。民族音楽学者のギルバートと魔術師が取っ組み合っている時、ギルバートがアイリスに向かって「審判みたいに跳び跳ねてないで、蹴っ飛ばせよ!」に場内爆笑。

犯人がハーツ医師だと判明するが、やはりいつものヒッチコック映画通り、観客が先に分かる。そして、毒を盛られるシーンにヒヤヒヤするという。もうヒッチコックの思うがままに操られる自分。「もう、どうにでもしてぇ!」と叫びたい。

ギルバートの列車すれ違いシーンも迫力あって良し!

敵組織との闘いではとうとう立ち上がる男性二人と、白旗を出せば許されるという男性とで明暗が分かれた。バンドリカという仮想国の敵組織と闘うが、ナチス・ドイツと読み替えていいらしい。

フロイが実は諜報員だったと分かり、暗号がメロディというのも洒落ていて良かった。殺されたギター弾きは暗号のメロディをホテルの外で弾いていたと。そして、敵組織にそれがバレて殺害された。フロイがホテルの窓辺からコインを落としたのは暗号連絡(密告?)のお駄賃だったのか。(命懸けの任務の割には安すぎな気が)

ラストにギルバートがメロディ失念するというユーモアも微笑ましかった。ここに限らず全編に渡ってユーモアが散りばめられていて最高だった。チャーターズとカルディコットのコンビはよく笑わせてくれた。イギリス人ってそんなにクリケット好きなんだと驚いた(信じていいのだろうか?)。あと、食堂車で角砂糖を机に広げるし。

特急列車にはサスペンスがよく似合う。自分は今後、特急に乗るたびサスペンスを探す。
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