砂場

デッドゾーンの砂場のレビュー・感想・評価

デッドゾーン(1983年製作の映画)
4.8
親父クローネンバーグ祭り第四弾、これも傑作❗️
まずはあらすじから

ーーーあらすじーーー
■学校の授業、仲睦まじい二人の教師。ジョニー(クリストファー・ウォーケン)とサラ(ブルック・アダムス)
夜サラを家まで送り、戻ったジョニーはトラックの横転事故に巻き込まれ大怪我を負う。
意識が戻った時には5年が経過していた。父と母の話からサラは結婚したと知る。
リハビリ中に看護婦の手を取ると火事と子供のイメージが脳内に浮かぶ、子供の危険を予知して知らせると子供は助け出された。
主治医ウィザックの手を握ると戦争中に別れた彼の母が生きていることを知覚する。医師は言われた場所に連絡すると母が電話に出た、、会話はしなかった。
■サラとの再会、二人は愛を確かめ合う。サラの赤ん坊、父との穏やかな夕食。
■ジョニーはマスコミに取り上げられたことで有名になり、バナーマン保安官から連続殺人事件解決に協力要請が来たが一旦は断るも最後は引き受けた。
■捜査中に新たな被害者が、、死体の手を握ると殺した犯人の顔が浮かぶ、、若い保安官が犯人だった。
犯人の実家で息子を匿う母親、突入するバナーマン、犯人は自殺。母親が銃を撃ってきたがバナーマンが射殺した。
この一件から極度の疲労と頭痛がひどくなり静かに一人暮らしを始める。
■家庭教師をすることになり、教え子の手を取ったときにアイスホッケーの氷が割れて溺れる映像が見える。教え子の父は強硬にホッケーに行かせようとするがジョニーは怒鳴って止める。教え子はジョニーの言う通り家にこもっていた。ホッケーチームの二人が溺死のニュース、、、ジョニーは教え子の無事を確認する
■地元政治家のグレッグ・スティルソン(マーティン・シーン)は選挙活動中。彼はポピュリストであり自信満々、高慢で強烈な性格。偶然にもサラと夫はサポーターをしていた。
スティルソンはスキャンダルを恫喝で揉み消すという卑劣な男だった
■演説会で多くの支持者に混ざってたまたま流れで握手をする。
将来大統領になっており、核ミサイル発射装置のスイッチを押す映像、、、、ジョニーは主治医ウィザックにもしヒトラーの台頭前のドイツに行けたらどうするか聞くと、人類のために殺すと彼はいった。
ジョニーはライフルを持ち、スティルソンの演説会場の2階部分に隠れてその時を待つ。
会場には赤ん坊を連れたサラ夫妻もサポーターとしてきていた。


<💢以下ネタバレあり💢>
■壇上のスティルソンを撃つが外してしまう、スティルソンは咄嗟にサラの子供を盾に隠れる、警護の男が銃でジョニーを打つと落下した、暗殺は失敗であった、
スティルソンは誰に頼まれたんだとジョニーに詰め寄ると手を掴んだジョニーには、ニューズウィークの表紙の映像が浮かぶ。そこには子供を盾にする卑怯なスティルソンの写真があった。スティルソンが自殺するヴィジョン。
ジョニーは微笑み、あなたは破滅すると言った。サラは愛してるわと抱きしめるがジョニーは息たえた。
ーーーあらすじ終わりーーー

🎥🎥🎥
数多いキング原作映画の中でトップレベルの傑作。視点をジョニー側だけにするなどの大胆なシンプル化はあるけど全体の世界観は原作に忠実。超能力者vs政府と言う似たテーマのキング原作『炎の少女チャーリー』は映画版今ひとつだった記憶😅

まず本作でもクローネンバーグの俳優の魅力を引き出す良さが出ている。クリストファー・ウォーケンの影のある表情、弱々しい笑い、でも鋭い眼光この演技最高でしょう。
家庭教師をしている少年を救ったことを確認のため電話するが少年が出ても会話はせずそっと受話器を置くとか見事な場面。
ここは主治医を演じたハーバート・ロムが最初の方でジョニーの言葉通り戦争で生き別れになった母に連絡を取れたのだがそっと目を手で覆い会話せずに受話器を置く場面からつながっている。
主治医の少年時代の映像にはドイツ軍侵攻が描かれており、ジョニーが暗殺を決意するときにヒトラーを例に出した場面と呼応する。
さりげないシーンだが、ジョニーと主治医の深い精神的な関係を示す。

またトランプそっくりと後になって話題になったスティルソン上院議員役のマーティン・シーン。
改めて見直してみると恐ろしいまでにそっくりで、クローネンバーグ&キング自身がジョニーのように未来を見通していたのか、、、
キングもトランプの出現に
「大統領候補に選出されるべきではない扇動政治家は、今に始まったことではない。37年前に出版された『デッドゾーン』にも登場している
とツイートしている。ちなみにマーティン・シーン本人は民主党支持のリベラルだそうです
最初の遭遇ではスティルソンと握手する時に、選挙用のバッチを手渡されたので幻視できなかった場面など実にうまい。

改めてクローネンバーグをまとめてみると俳優の演技を引き出す力、さりげない場面の連鎖で物語を紡いでいくのが実にうまい。セリフもシンプルで無駄が削ぎ落とされていてピシッと決まる。
グログチャの映像の鬼才というイメージが強すぎるのだけど、ヒューマンドラマの部分が素晴らしいのである。まあそうでなければこんなに長くは一線で活躍できないだろうね

エドガー・アラン・ポーの有名な詩『大鴉』が冒頭の授業で講義されている。
この詩は何か予言的であり、暗黒面、死に向かうイメージ、クリストファー・ウォーケンの雰囲気にはぴったりだろう。
彼の黒いコートが大鴉のようにも見える。
事故の後遺症で足を引きずって歩くジョニー、彼は事故の瞬間から死に向かって飛ぶ片羽の大鴉のようなものだったのか
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