ジャン・ギャバン映画。ジャン・ギャバンを観るための映画。中年男のロマンを一身に体現する男ジャン・ギャバン、という感じ。本作の頃50歳くらいなので当時の感覚なら初老だろう。それがノワールな陰影のもとでピチピチの若い女を侍らせ、まぁ機敏に走ることは難しいとしてもカーチェイスと銃撃戦をみせ、竹馬の友とのブロマンスもたっぷりみせる。
しかもこれぞギャバン映画と思うのが、ギャバン演ずるマックスが竹馬の友リトンに「肴はラスクしかない」と言って皿にカランとラスクを投げ、封をしてある瓶から何やらバターかチーズのようなものをナイフでくり出してまた皿に供するという動作を仔細にみせるシーン。二人してラスクにバターかチーズのようなものをぬりぬり、黙々とカサカサとラスクを食べ続ける。明らかに酒飲む量よりラスク食べる量のが多くて笑う。これはギャバン映画としてのサービスシーンなのだろうか。そのあとマックスはホテルのアメニティのタオルやシーツ、パジャマを次々とリトンに渡して、二人の着替えから歯磨きシーンまで何故かこれまた仔細に追っている。これらのシーンが好かった。
傷を負ったリトンと気遣うマックスの切り返しなどは、非常に情感のこもった胸熱ブロマンスシーンとなっている。
マックスはつねに若い女にモテモテで、彼の仲間たちもつねに若い女をそばに侍らせてる。その辺がもう中年男の夢全開である。ジャンヌ・モローなんかも出てくるがのちの彼女の役のような強さは無く、女たちは添え物でしかない。この物語の中ではどの女も金目当てというよりマックスに岡惚れしてるふうではあり、それもまさに中年男の夢全開。
金のある男に頼らなければ生きていけない女たちが気遣われることはない。
マックスの仲間でダンスホール経営者ピエロの妻は中年で、危険な抗争へ向かう彼らに「この歳ではやり直せない」と彼女が告げる。これが女たちの本音だろう。
闇稼業の男たちが集うレストランを営むブーシュという女主人もおそらく過去はマックスの愛人だったのだろうが、中年となった現在は縁の下の力持ちというか名誉男性的な立場で、女性としては扱われない。マックスはまたも新しい若い女を侍らせている。
こういうのが時代の常だったとしても、女たちが中年男のロマンの踏み台にされてるだけなのがいやだなぁという気持ちが拭えなかったのは事実。