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娘・妻・母のzhenli13のレビュー・感想・評価

娘・妻・母(1960年製作の映画)
3.7
初手から路傍で三輪車に乗った子どもが小金をせびって情報を売るという取引が描かれていて、とにかくずっと金が通底している。成瀬『驟雨』の乾いたシュールさと『稲妻』のままならなさを足したようなハードボイルドホームドラマを期待しながら観た。熟女原節子への仲代達也の恋心もはさみつつ中盤ちょっとだらつく気がしてこれはちょっと違ったかなと思ったが、ラストにむけてじわじわと面白くなり唐突でふわっとしたオープンエンドに「なんだこれは」となった。笠智衆はデウスエクスマキナか。

タイトルからして松竹小津映画と見紛う。原節子に杉村春子、加東大介、笠智衆の起用など、もしかしたら本作は痛烈皮肉な小津映画パロディになり得た作品なのではとも思う。役者が揃ったわりにやや散漫になってはいるがやはり成瀬は男も女も家族も一筋縄ではなく(いつも思うけど『浮雲』のクズofクズ男森雅之と高峰秀子の組み合わせはその後の成瀬作品にもたびたびあり見てるほうがあの泥沼ドロドロ堕落を思い出して暗くなる。演者たちはプロだからそんなこと思わなかっただろうけど、あの二人を何度も邂逅させる成瀬の嗜虐性を感じなくもない。そして本作の高峰秀子はずーっと控えポジションで一発逆転があるかと思うが特には無い)、しかも三益愛子のこれからを家族云々でなく彼女自身の選択に託しているようすが伺え、その意味では「伝統的家族観」(カッコつきにしたのは言わずもがな本当は伝統でもなんでもないから)をドライな子どもら以上に老いた者が自ら外しにかかる慎ましい潔さとうっすらとした酷薄さがある。現実にかえり老いてなおそういう態度をとれるかというのは実はものすごく難しいんじゃないかと我と我が身を振り返る。にしても三益愛子はまだ還暦、60歳の役なんだが。

老人ホーム(この頃もう養老院じゃなくこの名称になっていることは劇中の台詞にもある)のシーンは皆和装でおじいさんおばあさんコスプレみたいで往年の原ひさ子がたくさんいる!みたいな感じで笑ってしまったがおけさ節を踊る三人の女性の動きは大変キレがよい。やはりある時代までは一定の年齢になると本人の心身の状態と関係なくほとんどの人が求められる年齢立場を表すコスプレをし自ら進んで老いていったのかなと。
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