stanleyk2001

悪名のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

悪名(1961年製作の映画)
4.0
『悪名』
1961(昭和36年)大映

近現代任侠映画の原点。

任侠映画(ヤクザ映画)と言えば東映のヤクザ映画を思い出す。昔気質の弱小な組に厄介になる高倉健または鶴田浩二または藤純子。政治家と手を組んで開発から利益を得ようとする新興の組が主人公達に要求を呑ませようと嫌がらせを繰り返し堪忍袋の尾が切れた主人公は池部良または高倉健と共に殴り込む。

繰り返し製作されたヤクザ映画のパターン。

しかし東映任侠映画は、大映の『悪名』からヒントを得て量産された。『悪名』の方が先。

そして『悪名』はこの東映ヤクザ映画のパターンを全く踏んでいない。

河内で育った主人公朝吉は博打と喧嘩に強く女性に惚れやすい。モートルの貞(田宮二郎)に喧嘩で勝って惚れ込まれて組の客人に。

惚れた水谷良恵と駆け落ち。彼女を足抜けさせようとするが組長に反対され貞と一緒に組を出る。食堂の娘中村玉緒と結婚。因島に囚われた水谷良恵を奪取しようと乗り込むが失敗。地元の親分に追跡されるがさらに大物の組長(浪花千栄子)にとりなしを頼んで手打ち。しかし、、、

東映任侠映画は忠臣蔵のストーリーを下敷きにしてるけど『悪名』はピカレスク・ロマン。悪人である主人公が色んな悪事(遊女の足抜け、イカサマ博打)などを行って生きていく冒険物語。

映画『悪名』のラストでは主人公が悪者を倒すのではなく悪人である主人公が制裁を受ける。

以前『浅草博徒一代 アウトローが見た日本の闇 』(佐賀純一著)という実在の博徒の聞き語りの本を読んだ。

浅草で賭場を開いていた伊地知 栄治の一代記。博徒は賭場を開いて素人に遊んでもらうのが商売なので客に大負けさせても大勝ちさせてもいけない。ずっと長く賭場に通ってもらうのが一番良い。

博徒の組同士は共存共栄が基本だから縄張りをめぐって争ったりしない。

実際のヤクザの世界は任侠映画、ヤクザ映画の世界とはかなり違うことがわかった。

『悪名』は実際のヤクザの世界に近い。義理と人情の板挟みになって苦悩したりしない。主人公は女性にだらしなく、そして女性にも惚れられる。箸にも棒にもかからないチンピラだが女性に尽くすのが唯一の取り柄だ。

東映任侠映画を先に見ていた自分にはこれが任侠映画の原点かと新鮮だった。

追記
最初に主人公を誘惑する人妻お千代の中田康子がとても色っぽい。大映社長の公私に渡るパートナーになった人らしい。

因島の大親分イトを演じたのは浪花千栄子。凄みがあって迫力があって圧倒される。なにわのお母はんとは全く別人だ。
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