Kuuta

キャット・ピープルのKuutaのレビュー・感想・評価

キャット・ピープル(1942年製作の映画)
4.0
「キスすると猫女に変身して相手を殺してしまう血筋」と信じているイレーナ(シモーヌ・シモン)が、男と結婚する。関係を深めることができず、不満を溜めた男は会社の同僚の女と仲良くなり始め、イレーナは嫉妬を強くする。

猫女が本当に出てきたらB級ホラーになってしまうが、絶妙にぼかしているので、イレーナが妄想で狂っているだけの映画としても見られる。

「社会が望む姿とのギャップに恐怖する女性」と捉えると、現代的な視点を読むことも出来る。同僚女が何の疑問もなく生活するのを見ながら、「自分は適応できない」という意識に囚われ、檻の中で孤独を深める。男の折れた剣とか、穴に刺さった鍵とか、性的メタファーも随所に。彼女の行き場のない苦しみが、ズタズタになった絵やソファーを引っ掻く動作に現れている。

「毒を流したい願望」「人を殺したい願望」というフレーズが出てくる。現代社会が人の獣性を抑圧するからこそ、不満や怒りが溜まっていく。救いを与えるべき精神科医すら下心満載で、社会に居場所を失ったイレーナは、映画のラストで獣性を解き放とうとするが…。その結果を見た男の一言。最後までイレーナは社会に理解されなかったように感じた。切ない。

(男が黒豹を十字架で撃退するシーンがあるので、この映画にとっての獣性は弾圧されるべき悪魔なんだろうけど…。黒人のウェイトレスや掃除のおばちゃんなどのマイノリティが登場するのは、この時代のジャンル映画としてはまともではないか)

冒頭。黒豹を見ながら絵を描くイレーナ。失敗したスケッチをゴミ箱に投げるが入らない→男が拾い上げて捨てる。
このワンアクションだけで「社会規範から外れた女」と、「人間として近寄ろうとする男」という関係が提示されている。彼女の描く曲線的な絵は、造船デザイナーである男と同僚女が計算を用いて直線的な絵を描く事の対比になっている。

雨やプールの水が社会の内と外の境界を揺さぶる。2人が恋に落ちるシーンは雪が降っており、ハリウッドのありがちな舞台設定のようでいて、辛うじて固定化された関係の象徴にも見えた。

イレーナが同僚女をストーカーする見せ方はどれも面白い。黒いコートに身を包み、コツコツとヒールの音を立てて歩く獣としてのイレーナと、バスやタクシーであっさり移動する同僚。獲物の動きを見極めるように前もって無言電話をしてくるのも良かった。80点。
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