亘

アフター・ウェディングの亘のレビュー・感想・評価

アフター・ウェディング(2006年製作の映画)
4.2
【残される者へ】
インドで孤児院を運営するヤコブは、母国の大富豪ヨルゲンから出資の提案を受ける。多忙の間を縫って面会に向かうが、事業の話はほとんどできずヨルゲンの娘アナの結婚式に誘われる。そこでヤコブとアナの間の関係性が明らかになる。

ヤコブとヨルゲンの一家の間の数奇な運命を軸に、家族の関係性を描いた作品。設定が偶然の重なりで、たしかに映画的ではあるけど、スサンネ・ビア監督らしく主要人物全員の心情を繊細に描いているからこそ全員に感情移入できて重厚になっている。

[ヨルゲンの誘い]
ヤコブは妻子を持たず、インドで孤児院を運営していた。孤児院の子供たちが彼にとって家族であり、いつも資金繰りに頭を悩ませていた。そんなときに舞い込んできたのが母国デンマークの大富豪ヨルゲンからの出資の提案。特に思い入れのある孤児プラモッドに後ろ髪をひかれながらも、ヤコブはヨルゲンとの面会に向かう。しかしヨルゲンはヤコブの事業の話に興味を持たず、ランチや娘アナの結婚式に誘う。

[ヤコブとアナの出会い]
アナの結婚式で、ヤコブは元交際相手のヘレナと出会う。さらにはその娘アナがヤコブとアナの間の子だと判明するのだ。ヘレナがヤコブとの再会に戸惑い、かつての姿から「だらしない」と突き放す一方でアナは自らの実父を知るためにヤコブと2人で会う。
この時点では、ヤコブやヘレナはまだ真相をつかめずに戸惑っている。ヘレナは、それまで幸せな家庭を築いていた。そして娘アナの人生最高の日にヤコブが現れたのだ。ヘレナによると当時ヤコブはドラッグに溺れただらしない男だった。そんな時に会った2人だからこそ余計気まずいのだろう。
一方アナは幸せの絶頂にあり結婚という人生を振り替えるタイミングにあるのだろうが、実の父ヤコブを知ろうとする。ただヤコブ自身も自分の娘と知って嬉しかったのだろう。アナと仲良くなる。

[ヨルゲンの狙い]
ヨルゲンがヤコブに約束した日数が過ぎても、ヨルゲンは契約を結ぶ気配を見せない。さらにはヤコブに新財団の設立を持ち掛けデンマークへの移住を提案、その主導権をヤコブとアナに与えようとする。ヤコブにとっては孤児院存続のために足元を見られているような状態。ついにヨルゲンを問い詰めると、彼は死期が近いことを伝える。ヨルゲンは、自分亡き後のアナのためにヤコブを呼んだのだ。ヤコブはついにデンマークに残ることを決める。

[悲しみから未来へ]
新財団設立の会議の後で、ついにヨルゲンはアナに自分の死期が近いことを伝える。この時のアナの涙は、ジャケ写にもなっているほど印象的。さらにその後のパーティでヨルゲンは気丈にふるまうが、参加者がいない場所では「死にたくない」と子供のように泣きわめく。これが彼の本心だったのだろう。
その後ヨルゲンの葬式が行われ、ヤコブやアナは新たな生活を始める。一方インドでも、ヤコブが心配していたプラモッドはデンマーク移住を拒みヤコブ不在でもインドにとどまることを決めたのだった。

今作の主人公はヤコブではあるが、最も大きな役回りを見せるのはヨルゲンだろう。彼は自らの会社で財を成し、良き家庭を築いた”成功者”。常に自信満々に、明るい表情を見せている。ただ実際は不器用な男だったに違いない。不器用だからこそヤコブにアナの面倒を見てもらうためにわざわざデンマークに呼んで財団設立までさせる。自分の口から告げられず、ある意味”金に物を言わせて”お願いしたのだ。人前では気丈に豪快にふるまっているが、彼の本心は、ヤコブの前で泣きながらお願いしたり、パーティ後に「死にたくない」と泣きわめいたり実は弱いのだ。

彼がそこまでしてヤコブを呼び寄せたのは、自分亡き後のアナが心配だから。それだけアナに愛情をかけてきて「アナには自分がいなければ」と考えていたのだろう。実はヤコブも同じ状況で、ヤコブはインドに置いてきたプラモッドを気にかけていた。ヤコブもまた「プラモッドには自分がいなければ」と感じていたのだ。しかしラストシーンでプラモッドがヤコブを気にせずに遊びインドにとどまるのを選ぶように、自分のいない後のことを考えても実は人はうまくやっていくのかもしれない。きっとアナたちもヨルゲン亡き後上手くやっていくのだ。

印象に残ったシーン:ヨルゲンがヤコブに病気を告白するシーン。ヨルゲンが「死にたくない」とわめくシーン。
亘