晴れない空の降らない雨

ブラザー・ベアの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

ブラザー・ベア(2003年製作の映画)
4.6
 ストレートな感動作。盛り上がりに欠ける地味なストーリーではあるが、当時のアメリカ情勢を思うと、制作者の込めたメッセージに胸を打たれる。『ムーラン』『リロ&スティッチ』に続く、フロリダのスタジオ主導の第三作にして最終作。翌年、スタジオは閉鎖された。
 本作には女性キャラクターが(老婆と母クマを除き)登場せず、ロマンスは皆無。ここ3作のSFにみられたど派手な画面効果も少なく抑えており、全体的にストイックなつくり。
 ディズニーお得意の自然描写は相も変わらず『バンビ』を追従しており、そこがひとつの魅力である。主人公がクマになると、画面がシネスコサイズに広がり風景が色鮮やかになるなど、自然の美しさを効果的に伝える工夫も面白い。世界観も同様に『バンビ』が終わりなき四季の移り変わりを描いて以来の「循環型」ともよぶべきもので、『ライオン・キング』の《Circle of Life》や『ポカホンタス』の《Colors of the Wind》と共有している。

 スタッフは全体的に地味というか、二軍感がある……。監督のボブ・ウォーカーとアーロン・ブレイズも、その後これとって活躍していないようだ。アニメーターも、クマ状態の主人公をスーパーバイズしたバイロン・ハワードが『ズートピア』を監督している以外はパッとしない。なぜかルベン・アキノはいつも参加している。
 『トレジャー・プラネット』のレビューで言うべきことだったが、手描きアニメの問題点として、手描きとCGが混在していると違和感が生じてしまうのが結局克服されなかったことは言えると思う。本作の場合、原始時代の雄大な自然が背景美術にあるだけに、いっそう氷塊の落下や滝などCGに頼る部分が気になってしまった。(他の作品に比べるとはるかに地味だが)本作もDeepCanvasを用いたと思しき箇所が数カ所あるが、やはり背景がデジタルで塗られているためにツルンとした質感があり、他の大胆な油彩部分とギャップが生じてしまっている。こういったスペクタクルへの努力を含め画面の情報量・運動量において、同時期のPixarの到達点(『ファインディング・ニモ』)から見劣りするのは否定しようがない。
 
 本作もまたミュージカルでなく、移動や時間経過をダイジェストする際に挿入歌を用いる『ターザン』スタイル。ふたたび起用されたフィル・コリンズ作曲の挿入歌は、本人以外が歌ったものもある。しかし、やはり彼の歌声はディズニーの動物ものとの相性抜群である。