ふき

007/ムーンレイカーのふきのレビュー・感想・評価

007/ムーンレイカー(1979年製作の映画)
3.5
「『スターウォーズ』に影響を受けたボンドが、ついに宇宙に進出した荒唐無稽な作品」と揶揄されることが多いが、この作品はむしろ、「水面に映った月を熊手で拾おうとする人」というタイトル通りの意味で揶揄されるべきものだろう。

ロジャー・ムーア氏のボンド映画は「コメディ要素が多い」と言われるし、実際そうだが、今作のそれは次元が違う。「コメディ要素のあるスパイ映画」と、「スパイ映画をモチーフにしたコメディ映画」の境で揺れて、ギリギリ後者に傾いてしまったような出来だ。

特にリチャード・キール氏が演じるジョーズは、どんなダメージを食らっても傷一つ負わない、完全にギャグマンガ次元のキャラとして描かれている。生と死とセックスを描いてきたボンドシリーズの中で、今作の“死”の扱いの不安定さは、明らかに異質だ。
ただ彼もギャグ一辺倒の描かれ方ではなく、『フランケンシュタイン』でボリス・カーロフ氏が演じた怪物のような、恐怖の裏に潜む笑いと悲しみを体現したキャラクターになっており、立ち位置的にも顛末的にもとてもよかった。

本作は、見ていてつまらないことはない。宇宙を舞台にしたスパイアクションとしてもよくできているし、スパイコメディとして笑うつもりで見ればキッチリ笑わせてくれる。むしろ「笑える」と話題になるボンド映画の中でも、つまらないシーンや退屈なシーンが少ない方の作品だ。
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