ねむ

天国の門のねむのネタバレレビュー・内容・結末

天国の門(1980年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

マイケルチミノ監督がディアハンターでオスカーをいっぱい取ったあと、大きな期待を受け、莫大な予算をかけて作った映画がこの「天国の門」なんですが、当初の予算の何倍だかお金を使い、スケジュールも遅れまくった上に、酷評され興行的に大失敗して、老舗の映画会社を倒産させたという、映画史上「最も呪われた映画」として悪名高い作品です。
すいません、ネタバレありでいっぱい語りますよー

チミノ監督はこの作品の大失敗で一気に名声を失って、以後ほとんど映画撮らせてもらえてないんですね、今に至るまで。
それがなんでだか2013年のベネツィア映画祭合わせでこのデジタルリマスターの完全版っていうのが上映されて、そこから再評価が始まってるらしいと。

実際私はこの作品、ちゃんと観たことがなく、ただディアハンターのクリストファー・ウォーケンが出てまして、219分とかべらぼうな長さなんですが、これは観ざるをえないだろうと!
(※私は100分映画が好きです)

前置きが大変長くなりましたが(いわくつきなんですいません)物語は
19世紀末のアメリカ西部で起こった移民排斥運動を題材にしています。
当時(今もか)、アメリカ社会を支配していたいわゆるWASPのぶっちゃけ金持ってる牧場主たちが、東欧ロシアから流入してきた移民たちを嫌った挙句、合法的に全部殺して良いという許可を大統領から取りつける。

この、「全部殺して良い」と思っちゃうところも相当恐ろしいです。
この映画では被差別側は東欧の移民たちですけど、アメリカでは未だに黒人に対する差別問題とか絶えないですね。

登場人物は実在の人物ですが、名前以外はほぼ別設定になってるようです。
主人公は東部出身(らしい)インテリで正義感ある保安官、彼は妻帯者なんですが、赴任地のワイオミングに恋人がいたりして、移民の味方側です。
この恋人がヒロインで、娼館を経営している若くて奔放な気性の女性、さらに、金持ちの側にやとわれて、牛泥棒(移民)を始末する非情な殺し屋となっているネイトという青年が、ウォーケン。
ネイトも同じ女性に思いを寄せ求婚しており、女性の方は主人公もネイトも両方好きという三角関係です。

さて色々言う事はありますが、まずこれ酷評されたのが脚本だそうで。
監督が脚本も書いてます。
ですが正直、脚本が説明不足なのは否めません。
言葉で説明せず、ただ表情を交互に映したりというシーンが多く、主人公三人のバックグラウンドすら実はよくわからない。

しかし映像は素晴らしく圧倒的で、モブの衣装までも当時の再現で手縫いで作らせたとか言う(画面観ててもまったくわからない)狂気と言えるほどのこだわり、セピア色のノスタルジックな画面、ワイオミング州の絵画のような美しい自然、砂ぼこり、建物、蒸気機関車、そして埋め尽くす人人人!

冒頭ハーバード大の卒業式から美しき青きドナウに乗った庭園舞踏会、突如20年後の移民列車の人いきれ、草原を進む移民の群れ、彼らの憩いの場であり集会所でもあるローラースケート場、差し込む光の柔らかい美しさ、そして土埃の中人馬が激しく交錯するクライマックスの銃撃戦

特にこの移民たちの姿ですね…
彼らは東欧からの移民なので、女性はだいたい頭からストールを被っていて、しかも彼らは英語を話せない(!)ので、ドイツ語だかポーランド語だかで懸命に感情をまくしたてる
その姿がもうこんにちのヨーロッパに押し寄せる難民クライシスと完全に一致
こわいくらいでした。
(ちなみに彼らは土地を買って移住してきているので「移民」ですが
貧しすぎて食べて行けず、牛泥棒などを行っていたのです)
いつの時代にも持てる者は既得の財産を守ろうとし、群がる貧しい者を疎んじて排除しようとするのでした…

映像的には序盤の大舞踏会、中盤のスケート場、終盤の戦闘シーンと、「群衆が広いところでグルグル回る」というスペクタクルがたびたび登場
序盤の華やかな舞踏会が若さや未来への希望を象徴
スケート場のシーンは貧しくも活気ある移民たちの生活を描いていたのに
最後、同じ「大旋回」の銃撃戦は絶望的な殺戮の現場へなだれこみます。

脚本の弱さと、映像の魅力のアンバランスという点では、宮崎駿監督の最近の作品を思い浮かべると似た感じかもしれません
巨匠が全部自分でやりたいようにやると結構ああいうふうになってしまうという…

キャラクター的には、妻帯者のくせしてヒロインに入れ込んでいる主人公にイマイチ好感が持てませんが、それ以外は良いキャラも多く(特にネイトは良い!ウォーケンの一番美しかった時期で輝いてます)、人間描写がしっかりしていればすごい傑作になった気がするので、もったいなく思いました…
主人公の学友ビリー(ジョン・ハート)なども、若き日の理想の「死」を体現したキャラで、おいしいのにあまり生かされてない…

史実を元にしつつも、キャラクター含め話は相当にでっちあげてるわけで、(映画のクライマックスとなる「ジョンソン郡戦争」は実際には起こっていない!)監督としては話でっちあげてでも訴えたい、物語があったと思うんですが。

70年代、ベトナム戦争などの影響で古き良きアメリカの価値観が完全に崩れ、ハリウッド映画の世界でもそれを反映して、若者の反逆やアンハッピーなEDを描いた「ニューシネマ」っていうのが流行るんですが、この「天国の門」っていうのはその流れを汲んでるっぽい作品で、やはり大変苦々しいEDを迎えます。
若き日の理想はついえて、何もかも消えていってしまった…というような。
そこで終わり(笑
ちなみにこの映画はロッキーよりもスターウォーズよりもジョーズよりも後なので、ニューシネマの流れもほぼ終わってたと言える時期の、最後の盛大なあだ花ような作品といえるのではないでしょうか。
ねむ

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