和桜

壁あつき部屋の和桜のレビュー・感想・評価

壁あつき部屋(1956年製作の映画)
3.9
BC級戦犯の手記を元に安部公房が脚本、小林正樹監督が社会派志向を全面に押し出す原点となった作品。同監督の『東京裁判』と合わせて見たい作品でもあり、ここ数年でソフト化され視聴手段も増えてようやく見る事が出来た。
上官の命令で罪を犯した男は戦犯として投獄され、それを命じた上官はのうのうと戦後社会を謳歌する。彼の母や妹を騙して善人面で社会運動まで始める始末。
こうした戦争の不条理さの中で被害者としての戦犯を描きながら、同時に自らの加害性や責任を自覚する瞬間を捉える。平和は罪の反省から生まれると。

今作は反米的とされ公開予定から3年後にようやく上映に至った。朝鮮を始めアジア諸国への視点が含まれている点で、それを回避してきた日本の戦争映画としては異質な存在であり、当時だけでなく今も時代に抗い続ける力を持った作品。被害者としてのBC級戦犯像を定着させた『わたしは貝になりたい』に対して、こちらは加害責任に対して自覚的であろうとしてる。二つを比べると本当に対照的で数奇な受け入れ方をされて、戦争に対してどう向き合ってきたのかという歴史がそのまま示される。
ただ小林監督の作品は後世に残していくべき映画だけど、生き物全般の扱いが少し酷くて、この映画も猫好きにはきついので注意が必要です。
和桜

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