和桜

復讐するは我にありの和桜のレビュー・感想・評価

復讐するは我にあり(1979年製作の映画)
4.0
西口彰事件を題材にした直木賞作品を今村昌平監督が映画化。殺人と詐欺を繰り返しながらの逃走劇が取調室での回想形式で描かれる。
題名にある通りキリスト教がベースにあり、罰するのは神だと言わんばかりに安易な価値判断を下す内容ではない。彼自身がなぜ殺したのか分かってない人間がいるように、読み取りにくい心情や不可解な行動も多い。だけどそれ故に非常に人間臭く、同時に常軌を逸した姿を唐突に見せつけられる生々しさがある。

そもそもの始まりは第二次世界大戦中の少年期にあったようにも思う。天皇陛下万歳の軍国主義の中で強いたげられてきた五島の隠れキリシタンたち。その一人であった父親が、神ではなく目の前の軍人に屈した姿を見たことから反発が始まる。
父への反抗はやがて国家や神を含めたあらゆるものへの反発に繋がり、挙げ句は骨になっても世界に逆らい続ける執念深さ。

終わってみれば、父親に全ての反抗心をぶつけられていたらと思わずにはいられない。父親がキリスト教を盾に聖人ぶることで、緩衝材になれなかった部分もあって、最後の父親の決断は最も納得できるものだった。
自分が殺したい人間を殺せたから後悔はないと語る刑期を終えた殺人犯との比較。自分の子供がお腹にいるかもという考えが過った瞬間の豹変。
「恨んでない人間しか殺せなかった」という結果が、同情の余地は一切ないけど物悲しさと不条理を覚えてしまう話だった。
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