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二十四の瞳のakrutmのレビュー・感想・評価

二十四の瞳(1954年製作の映画)
5.0
瀬戸内海べりの一寒村に赴任してきた若い女先生と生徒たちを通じて、戦争に突き進んでいく当時の世相や戦争による悲劇を描いた壺井栄の同名小説を、木下惠介監督、高峰秀子主演で映画化した作品。この後も映画化やTVドラマ化が行われているが、『二十四の瞳』と言えば、本作を指すことがほとんどである。小豆島という設定は小説には一切出てこないが、本作で舞台を小豆島(壺井栄の出身地)としたことで、『二十四の瞳』=小豆島というイメージが定着している。

文句なく素晴らしい映画であることは間違いない。「小石先生」になつく小学1年の無邪気な子供たちが、小学6年になると経済危機や戦争拡大などの影響を受けて女の子は進学を断念したり、奉公に出されるようになる。男の子はその後次々と戦地に赴き、ほとんどは戦死してしまう。大石先生も、自分の気持ちに素直に教育しただけなのにアカのレッテルを貼られ、不遇な生徒たちに何もしてあげることができず、一緒に泣くだけである。そのような境遇に嫌気がさし、教師を辞めてからも、自分の家族に不幸が訪れる。将来への希望はほとんど描かれず、映画のラストシーンでさえも、その後の苦境を暗示するような天気の中で大石先生が自転車を漕ぐのである。本作の5年前に公開された『青い山脈』のラストシーンとは正反対なのも興味深い。

涙のシーンがこれほど悲美な映画はあまりないであろう。特に後半の大石先生は泣いてばかり(教師復帰後は「泣きミソ先生」とあだ名をつけられる)であるが、その涙が強烈な悲しみとともに人間の美しさも喚起させるのである。唱歌をみんなで合唱する子供たちも印象的である。小学1年と小学5年で似ている子役をよく集めたなあと思って見ていたが、そもそも兄弟姉妹でオーディションをしたらしい。よく似ているはずである。ほとんど学校に通ったことのない高峰秀子も教師役を好演していて、さすがである。死神博士が夫役を演じているとは知らなかった。
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