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4ヶ月、3週と2日のkekqのレビュー・感想・評価

4ヶ月、3週と2日(2007年製作の映画)
3.4
ルーマニア映画。ある女子大生の人工妊娠中絶と、それを手伝う友人の一日を描いた物語。

とにかく出てくる人間が、老若男女問わず全員どうしようもなく愚かでお粗末です。
約束を守らない、ロクにお金を準備しない、さらには嘘までついた結果大事な人物を怒らせてしまい、20分近くひたすら説教されるシーンは圧巻。怒った側の人も結果的にはなかなかのクズでした。
友人のために必死で走り回る主人公も、健気というよりは過剰に献身的なその心境は不可解であり、最初から最後までグロテスクな人間模様を見続ける奇妙な映画でした。

ただ、「1987年 チャウシェスク独裁政権下のルーマニア」というキーワードを付加することにより、描かれた世界は一変します。
この時期、この国の異常でいびつな状態、全ての若者が抱える果てしない絶望と不安、考えることをやめ無責任な諦観を決め込む大人たち、それぞれがあらゆる角度で描写されており、彼女たちが「どうしようもない」のではなく、「どうしようもなくなった」ことを思い知らされます。
ハンディカメラで撮った低画質な映像も不自然な長回しも不安定な世界のリアリティを助長しており、後半の闇夜の恐ろしさも非常にシンボリックでした。

一見粗雑でありながら、観る側の解釈を一歩深めることで極端に価値の変化するハイレベルな映画。
観れば観るほど謎が深まるパルム・ドールを、少しだけわかった気になれる作品でした。
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