いつも同じ通りですれ違う、隣人のあの人。ダメとはわかっていても惹かれ合ってしまう。
でも実は互いの配偶者同士が不倫していたら…。
レトロな街並みや家、鮮烈な赤が印象的で、情熱的だけど落ち着きのある不思議な作り込まれた美しい世界は、さすがウォン・カーウァイ監督である。
雨による湿気で街頭の光がぼやける。
むせかえりそうなほどのタバコの白い煙が、異常なほどに天井まで舞い上がり広がる。
それだけで美しい。そこに過剰な演出はいらないのだ。
積極的にアプローチしてしまう男チャウ、それに対してさりげない優しさで応える女チャン。
二人の視線が交わる様やすれ違う瞬間にドキドキする。またこの二人が画になる二人なのである。
覗くようなカメラワークで、彼らの秘密の、とはいっても純愛な関係の切なさをより感じる。公には決してできないのだと。
部屋の壁が二人の間を隔てる。
それは物理的にも心理的にも彼らの距離が、それ以上縮まらないことを示唆しているようだ。
そしてやはり印象的なのは、真っ赤なカーテンに覆われた部屋の廊下をチャイナドレスを着たチャンが闊歩するショット。
目がチカチカするほどのビビッドな色合いだが、その背中とその赤にどこか哀愁を感じるから不思議だ。
このように計算しつくされた色彩設計やショットに見惚れるが、説明的なストーリーとはどうしても相容れないのは仕方ない。
特にラストがあんまりしっくりこなかった。
「映画」という枠組を超えて、芸術作品としてとらえた方がいいのかもしれない。