田島史也

ブラックホーク・ダウンの田島史也のレビュー・感想・評価

ブラックホーク・ダウン(2001年製作の映画)
3.6
米軍の対ソマリア戦をじっくりと描いた作品。タイトルのブラックホーク・ダウンは物語の始まり。戦々恐々とした世界への片道切符。

大胆なカッティング、動的なカメラワーク、鬼気迫る演技、そして凄絶な音響。これらが織り成す戦場の圧倒的な臨場感。軍略により展開される壮絶な銃撃戦が、それは同時に多くの兵士の個人レベルの物語であることを伝える。敵も味方も、皆命じられて銃を装備しているのであり、両者を分かつのは生まれた場所の違いくらいのものである。戦争を俯瞰するのではなく、カメラに当事者の目線を委ねることで、臨場感と同時に戦争という不条理をまざまざと見せつけた。

そして、米軍の不自由さも見事に描き上げた。作戦の円滑な遂行よりも、負傷者の救助を優先する。負傷者を助けるために、多くの犠牲を払う。このことに非常に歯がゆい思いをさせられるが、傍観者である我々はこの事実に対して何も口出しすることは許されない。
組織的な作戦であるため、連絡系統が明確に存在するが、それが足枷となり、目まぐるしく戦況の変化する現場に追いつけない。戦場は常に未来で、司令部は常に過去なのである。無論、実際の戦争がそうなのかは知り得ないが、そうなのかもしれない、と想像できるほどには説得力のある描写だった。

軋轢と確執。それぞれの正義と忠誠が交錯する。特に、敵が墜落現場を占拠した際の狂喜乱舞をは胸に迫るものがあった。嗚呼、戦争というのは憎しみしか生まないのだなぁと。集団心理と化した憎悪はこれほどまでに恐ろしいものなのだと、戦慄を覚えた。

血と負傷の描写もまた素晴らしい。戦争の悲惨さを伝える上では少々グロいくらいがちょうど良い。とりわけ突貫手術のシーンは最高だった。なんというか、ただの撃ち合いでは無く、それが地に足ついた戦争なのであると、示してくれた気がする。戦場での手術は想像してみたことがあったが、これは想像以上だった。

「俺は仲間のために戦う」
そうか、と思った。自分が戦わなければ、仲間の誰かが戦うことになる。だから戦うのだ。
私は戦争のことを何も知らない。本作を観て知った気になるのもどうかと思う。だが、本作を通じて戦争とは何たるか、少しは分かった気がする。分かりたくても分からない世界を、少なからず伝えてくれた本作に賛辞を送りたい。


映像0.9,音声1,ストーリー0.6,俳優0.8,その他0.3
田島史也

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