荒野の狼

ONCE ダブリンの街角での荒野の狼のレビュー・感想・評価

ONCE ダブリンの街角で(2007年製作の映画)
5.0
2007年のアイルランド映画。86分と短いせいか、物語は、割にストレートで、コメディのように楽しく見られる。主役を演じたグレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァはミュージシャンで俳優が本職ではない。物語は、主人公の二人は双方とも、忘れられない恋愛関係があり、すぐには、二人が惹かれあって、恋に落ちるとはいかない状況。男女関係が、単純ではないので、この映画は、中高年にむしろ共感が持てるのでは、と思ったのだが、演じたイルグロヴァは当時まだ19歳というのは意外(ハワードは37歳。イルグロヴァが大人びて見えるので、年齢差は特に感じないが)。この映画を現代のミュージカルと紹介しているものがあるように、いくつもの曲が、挿入され、それぞれの曲は、主人公の心情を反映している。エンディングの一番最後の曲が、” 鍵的に映画のプロットに大きく関わってくる”ように思えて感動的。歌詞は以下。

Part of me
Has Died
And won't return
Once, once
I knew where to look for you
Once, once
But not anymore

“自分の一部が死んでしまった。かつて、僕は、君の居場所を知っていたのに、もう今は、わからない”。この映画の原題はOnceであるが、上記の詩においては、Onceの訳は、“かつて“であり、映画の紹介にあるように、” 人生でたった一度”という意味ではない。

この映画の後に、主人公の二人がどうなったのか、気になるところだが、アメリカのテレビシリーズ、ザ・シンプソンズのシーズン20の第14話"In the Name of the Grandfather"に、主役の二人が映画の役で声(アニメなので)で出演。開始15分ほどで、出演は30秒ほどだが、ハンサードは映画と同じギターを持って登場、イルグロヴァの住むアパートの下で歌うのだが、思わず笑ってしまう結末は、映画のファンなら見ておきたいところ。

英語版のDVD(ASIN: B000X1Z0BU)では、英語の字幕が入る。多くの場合、歌の部分にも字幕が入るが、一部(エンデングなど)の歌に字幕が入らないときは、クローズド・キャプションに切り替えると、字幕が入る。英語版の監督らが、コメンタリーやメイキングで語っているのは、”この映画のあらすじだけを読むと、果たして、このような内容が映画になるのだろうかと思うだろうが、どの人でも、この映画のどこかに、自分も経験したことのある出来事を見出し、共感できるだろう”としている。アイルランドではシングルマザーはありふれているのに対し、チェコでは、稀であるので視聴者によって、映画の主人公への共鳴は違ってくるだろうともコメントされている。

ハンサードと職人気質の父親の関係もよく描かれ、父親が、旅立つ息子にかけるはなむけの以下のセリフはよい。

Make your ma proud. (死んだ母さんが誇りに思うような息子になれ)
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