emily

ONCE ダブリンの街角でのemilyのレビュー・感想・評価

ONCE ダブリンの街角で(2007年製作の映画)
3.5
ザ・フレイムスのグレン・ハンサードが主演し、アコギ一本でストリートライブを行い、小金を稼いでいる。同じように路上で物売りをしている女性と出会い、その強引さに若干ひきつつも、彼女のピアノと歌声を聞けばまるで磁石のように吸い込まれ、その絶妙のハーモニーの心地良さに、さらに音楽ののめりこみ、曲を作り、録音作業を行う。男は音楽の夢を片手にロンドンへ行く。

主体となるのがグレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァの奏でる音楽である。物語はあるようでなく、音楽にのせての映像が多い。

彼女の歌声とピアノが加わったときの、あの磁石が引かれあうような感じ、一つの歌声が加わることで、全く違う深みを増す感じ、その運命のハーモニーは心に訴えかけられるものがあった。音楽なんてそのとき一瞬の生き物で、同じ音を奏でても、あの時と同じ音は出ない。

音は思い出と共に、さらに人の思いにより、変わっていくし、歴史を刻んでいく。そのときのその音は、そのときにしか出せない音だ。

その”生き物”感と男と女の出会いの”生もの”の世界観を、見事にぶれる手持ちカメラで作り上げている。音に乗せるそれぞれの思いが、音楽では重なり合っても、実生活でも交われるとは限らない。多く語られる事はないが、音楽と恋愛の比重のバランスが良い。二人の関係が愛でも仲間でもない、”音”で”心”でつながる関係性であること、そうしてそれは離れたからと言って消えるものでもないし、一緒にいたからと言ってうまくいくものでもない。ただその瞬間に奏でる音楽が二人の世界を作り上げるのだ。

その街角であうとある二人
その一度の一瞬の出来事
でも奏でた音楽は一生のものになる
たった1秒ずれていたら出せなかった音
その瞬間にしかだせない
その瞬間にしか生きない
名前さえない二人が、きっと世にも出る事のない極上の
ハーモニーはずっと心に鳴り響く
emily

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