「はじまりのうた」や「シング・ストリート」もそうだけど、ジョン・カーニー監督は歌を人の交流ツールとして非常に重要視しているんだという事を如実に感じる作品。
それぞれスネに傷を持つ男女が歌で繋がり互いに少しずつ惹かれ合っていく物語。
とにかく音楽が名前すら判明しない男女の感情の機微を余すことなく表現している。個人的には、女が夜遅くにウォークマン用の電池を買いに行き、男の曲を聞きながら作詞するシーンが大好き。「If you want me」って曲のタイトルなんだけど、女がウォークマン聞きながら帰る様子を1テイクの長回しで撮る演出で胸が異様なまでに苦しくなる。
そして、この映画のもう1つの主役は「天気」だと思う。アイルランドの曇天は本作の男と女の微妙な人間関係を暗示する最高の舞台装置となっている。
海沿いのドライブで男が女に「離れた旦那さんのことを愛してる?」って聞いた時、女がチェコ語で返すシーン。訳が本作に出てないので男と観客は女の返答の意味が分からない。後で訳を調べたらあまりに切なくてちょっと泣けた。
予算と作品の質は比例しないことを痛感する、カーニー監督の佳作。