T太郎

画家と庭師とカンパーニュのT太郎のレビュー・感想・評価

画家と庭師とカンパーニュ(2007年製作の映画)
4.2
1022
再鑑賞
フランス映画だ。
大好きな作品である。

二人の中年男性が主人公だ。
ジャルダン(庭師)とキャンバス(画家)。
二人は幼なじみである。

故郷の田舎町に移住してきたキャンバスの前に、庭師のジャルダンが現れる場面から物語は始まる。

静かな立ち上がりだ。
平和的で牧歌的である。
再会を喜び合う二人が実にいい。

キャンバスは名のある画家だ。
バリでパリパリ・・・パリでバリバリ仕事をしていたらしい。

しかし、私生活は順調とは言えず、妻とは別居中で娘ともギクシャクしている。
おまけに画家としても色々煮詰まっているようなのだ。

そんなキャンバスが、懐かしい故郷に居を移した訳である。

ジャルダンはJR職員・・近鉄職員・・国鉄職員を退職して庭師をしている。
腕利きの職人だ。
雑草だらけのキャンバス邸の庭を見事な菜園に作りかえた。

そして、よくしゃべる。
よくしゃべるのだが、その口調は穏やかで心地いい。

前半はそんな二人の会話劇だ。
たわいもない思い出話やジャルダンのうんちく話などの様子が、静かに描かれていく。

キャンバスの身上は生々しくも生臭い。
愛人の存在、妻との不仲などなど。
そこそこ豊漁の漁船か、というぐらい生臭いのだ。

だが、そこにジャルダンが加わると、途端に場が素朴で平和的になるのである。
まさに人徳と言えるだろう。

とにかく二人のやり取りが素晴らしくいい。
演出の妙もあるのだろうが、実に自然で朴訥としていてリアルなのだ。
終盤に感動の展開があるのだが、全くそれを予見させない普通っぷりなのである。

    以下ほんのりネタバレ

私は基本的に難病物をあまり好まない。
観客を泣かせるコンテンツで、これほどお手軽で簡単なものはないと思っているからだ。

これは、一時流行った携帯小説(の映画化作品)などで多用されていた印象がある。
当時若造だった私は、そのムーブメントを非常に苦々しい思いで見ていた記憶がある。
センブリ茶ぐらい苦々しかったのだ。
(飲んだ事ないけど)

実はこの作品もある意味、難病物である。
悲しい。
悲しいのだが、かつての携帯小説とはひと味違う。
至極あっさりしているのだ。
誰も泣かない。
いや、泣いている場面は描かれないのだ。
終始同じトーンで物語は進んでいくのである。

そして、その悲しみを乗り越え、キャンバスが芸術家として一皮むける物語でもあるのだ。

しかし、ラストシーンで映し出されたキャンバスの作品を観た時、私の双眸からは熱いものが静かにこみ上げてきたのである。

あ、いや、これは涙ではない。
私はオギャー以来泣いた事がない男なのだ。
この私が泣く事などあり得ない。
ちょいと煙が目にしみただけなのである。

全くもって困ったものだ。
やれやれ、である。

        蛇足

ジャルダンとワンちゃんとの絡みは秀逸!
T太郎

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