喜連川風連

秒速5センチメートルの喜連川風連のレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
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再視聴。ギャルゲー由来の没個性的な主人公が、叶わない希望を抱えたまま大人になる話。

四季を使い、起承転結が表現され、分かりやすい。

主人公の意志(主体的な足掻き)は、物語のノイズとして極力排されている。物語を動かすのは主人公の周りにいる人間だ。

美しい都市東京×山崎まさよしのMVとしては見応え十分。新海誠監督の東京愛があふれる。

綺麗な風景と失恋という相反するものを共存させることによって作られるZ世代的エモい雰囲気。これにより本作は多くの新海フリークを生み出すきっかけとなった。

ただ、風景以外のディテールが甘い。

例えば、鉄道の乗り換え。主人公は新宿から宇都宮線方面へ向かいたいにもかかわらず、赤羽で乗り換えせずに、武蔵浦和と大宮で乗り換える。(当時は湘南新宿ライン開業前)

その路線を利用したことのある人ならまずやらない乗り換え方法なのは、主人公の拙さを描写するためか?

不合理な行動は、リアルな描写が売りの世界観だと浮いて見える。それに対して特に説明はない。

分断と繋がりのメタファーとして、効果的に鉄道と踏切を用いているにも関わらず、もったいない。

ただ、新海さんの画面上のメタファーの上手さはこの頃から既に萌芽。

弓道で弓を放ち続ける様は宛先のないメールを出し続ける様子と重なる。決して相手から返ってくることはない。

桜も、ロケットも、弓も、放ったら返ってくることはなく、テーマは片道というところで一貫している。

種子島から放たれるロケットの描写は、性行為の暗喩か?それとも遠く旅立つ彼の暗喩か?その両方な気もする。

「運命の人など、いない」そう絶望した新海誠監督独身時代の心の叫び。結婚後に作られたのは「君の名は。」振り返ったら運命の人に出会う。

ほとんど独白による説明ばかりで会話のない点が、監督の寂寥感を如実に表す。

相も変わらず、人を選ぶ映画です。
喜連川風連

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