Shintaro

秒速5センチメートルのShintaroのレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
3.5
君の名は に感動を覚えなければ、多分一生手に取らなかっただろう怪作。
これは君の名は の感想になってしまうんですが、今作やあと今までの新海さんのとりわけ『雲の向こう、約束の場所』に見られる恋愛観、世界観、人生観が全て集約されパッケージ化されたのが『君の名は。』だったわけです。秒速を観て特に感じたのはその”繋がり”でした。

過去作にトラウマ級の嫌な思いがある方でも、一歩引いた目線で監督のアーカイブと『君の名は。』までの過程を考えると感慨深くなると思うんですね。

正直この映画だけの感想言っちゃえば、ヘドが出るほどのご都合童貞思考の極みで、第2話あたりで発狂しそうでした(マジで半分白目だったわ)
種子島で出会うあの子が個人的タイプでして、その子の期待を見事に弄ぶ主人公にもはや失笑。
3話は 偶然か、必然か そんな事はどうでもいい、取り敢えずザマァ! (我ながら救いようがありません)

ただ、ユーチューブで『最終兵器彼女』のBSマンガ夜話でのトークを聞いていて、岡田斗司夫が新海作品を論じてんのか というぐらいドンピシャなとこがありまして。
”打算、友情、将来、家族、結婚、仕事” これらを一切排除して、主人公とヒロインの今この瞬間だけが本物でありリアルなんだ!という価値観、本来キャラクター達の肉付けとなる要素を入れず、残酷で不条理な世界に住まわせる事により非常に排他的な恋愛が生まれる
それこそが純愛である と論じてました。
全くそのまま『秒速』に持ってこれますし、『約束の場所』『ほしのこえ』にも通じます。

恋愛をリアルに描くと結局はブルーバレンタインが待ってるだけなんで、その当事者のマインドではそれが全てであり崇高な別次元なんですね。そういった研ぎ澄まされたメンタルにダイブしたアニメーションだと思います。

新海さんの作品が出てくる、飛行機やロケット、 隕石やバカでかい塔、空や宇宙のイメージ どれも美しい映像で登場しますが、きっとあれは主人公と”セカイ”との繋がりを意味してるのだろうと思います。
宇多丸さんもやはり”セカイ”というワードを使ってましたよね。
主人公らの世界というのは、家族や仕事、将来があるような現実ではなく、非常に抽象的で崇高な刹那的なイメージです。
圧倒的な”セカイ”との対比が主人公やヒロインの孤独を一気に高めます。彼らと世界で起こることのカタルシスがシンクロしていく、新海さんの得意とするエモーショナルな描写ですね。
やはりこの表現力には感服です。

今までのモチーフやそういったエモーションの表現力を集約させた『君の名は。』とそのプロトタイプとも言える『秒速5センチメートル』。
この関係性に今回改めて驚きました。
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