ろ

ザ・フライのろのレビュー・感想・評価

ザ・フライ(1986年製作の映画)
5.0

物質転送を研究する科学者セス・ブランドルはある日、記者のベロニカと出会う。
彼女の言葉をヒントに、失敗続きだったマントヒヒのテレポートに成功。
その夜、セスは自分の体の転送を試みるが・・・

研究漬けの日々から一転、セスの身体能力は開花し、まるでドラッグをしているかのように眠らなくなる。
穏やかだったセスは突然怒りっぽくなり、ベロニカは違和感を覚える。
さらに彼の背中には人間の毛とは思えないほど堅い毛が生え始め・・・

「ブランドル・セスは蝿を吸収したのか?」
「いいえ、遺伝子レベルで融合しました」

実験で自分の潜在能力が引き出されたと喜ぶのも束の間、装置に不純物が混ざっていたことが判明。その正体は一匹の蝿だった。
アイスやチョコバーをたらふく食べ、持て余すほどのエネルギーに満ちていたセスだが4週間後には杖なしでは歩けないほど老け込む。皮膚はたるみ、歯は抜け落ち、爪は剥がれ、指先をつまむと血の代わりに白い液体が飛び出す。やがて屋根や壁をよじ登り、液状の酵素を吐きかけて食事を摂るように。
「蝿人間第一号だ、これこそノーベル賞ものだぞ」と自分について研究したい一方で、失いつつある人間らしさをなんとか留めておきたいと強く願う。感情も理性も失えば大切な人を傷つけてしまうかもしれない。その不安や悲しみが日に日に募っていく。

若さと老いを一気に駆け抜け、虫としての第二の人生にまっしぐら。
そんなセスの生まれ変わりとともに描かれるのはベロニカの妊娠。
セスのこどもを身籠った彼女は奇怪なこどもが生まれるのではないかと思い悩む。
妊娠や出産は女性にしか経験できないものだけれど、この物語ではセスも新たな生命を宿す繭のようになっているのが面白い。

「人間であることを夢見たけれど、その夢はついえた。昆虫の姿が現実さ」

焼けただれたようなごつごつとした頬に涙が伝う。
憂いのある瞳がとても魅力的で、「キングコング」や「フランケンシュタイン」の切なさがあった。

( ..)φ

本当は全部すっ飛ばしたかったんじゃないかってぐらいサクサクと進むセスの人間時代。蝿との融合後、待ってましたとばかりに肉体の変貌をじっくり見せてくれる。

ベロニカのアパートで勝手にシャワーを浴びる元カレは「サイコ」そっくりの演出で登場するし、悪夢の出産シーンは「イレイザーヘッド」や「エイリアン」みたい。遊び心満点で面白かったな。
いつか「ビデオドローム」や「怒りのメタファー」「裸のランチ」も観てみたい・・・!
ろ