やんげき

ベニスに死すのやんげきのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
4.1
美しい。
1971年作。もうすぐ半世紀を経ようとしているのにこんなにも今なお美しいとは…。冒頭の汽船が近づいてくるシーンの長回しのなんと美しいことか、ラストのタージオが波打ち際で佇むだけのシーンのなんと神々しいことか。

老音楽家が、美少年を追いかけて密かに恋心を抱く。というそれだけのお話をここまで耽美に仕上げた巨匠ルキノ・ヴィスコンティのただならぬ気迫を感じる。

と同時に、汚い人々や景色なども登場する辺りが名作と誉れ高き作品の持ち味だろう。ベニスの美しさと汚さを映し出すと同時に、人々が持つ汚さと美しさもまたカメラは捉えている。このシンプルだがキレキレの対比がこの作品の格を一段も二段も上げている。

冒頭から流れるマーラーのマーラーの交響曲第5番「アダージェット」に合せてシーンを撮ったかのように、感情に寄り添いながら俯瞰的にも感じ取る事ができる複雑な音楽の余韻もまたすごい。マーラー得意の幻想的な情感が本作においては実に切ない効果を発揮している。

避暑地の、ひと夏の恋と呼ぶには、あまりも偏執的過ぎるのだ。
タージオの後ろを離れて追いかけるアッシェンバッハの姿は哀れだし、白粉をしてまるで乙女のようにおめかしをする姿が、冒頭のキチガイじみた道化男の姿と被るのもまた見事な演出だ。

美に狂う人間を美しい映像美で魅せる狂気がこの作品にはある。
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