まりぃくりすてぃ

断絶のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

断絶(1971年製作の映画)
3.4
こう蒸し暑くて頭皮ヌルヌル毛髪キシキシしてくると、水風呂ざぶんみたく九十九里浜とかに招かれてる気がすごくして、でも今夏はオンに入るきっかけがなくて、とりあえずサーフィン映画一つ観とこっかな、とザ・ビーチボーイズ唯一のリアルサーファー(そして唯一のイケメン)だった故デニス・ウィルソンを久々に偲ぼうと。いや、全然海ナシだけどもデニス出演のこのクルマ映画をレンタル。

いい感じの闇色と音響でスタートだよ。
若者二名(運転手役ジェイムス・テイラー&整備士役デニス)/売られた喧嘩を買ってくれるおじさん(ウォーレン・オーツ)/ヘンな女子(ローリー・バード)。主要なその四者は、心がずっとバラバラなんだが互いに相手の言葉をよく聴く役。だから、たいへんにぶっきらぼうな作りのわりには真性ニヒルでもシュールでもなく、けっこうオーソドックスな左脳映画という感じがした。
彼らの心が近づき合うのは「勝負」と「停戦」に言及する時だけ。突然のゆで玉子による一旦停戦がちょこんと印象深い。狙った効果だったわけでもないみたい。
エンジン咆哮と時々の速度表現さえあればいいってことでか、暴力が一度も出てこない。退屈でもない安心映画だけど、どんよりしてる。
主役たちの車はどう褪せさせどう埃をかければああなるのか、薄汚い極薄青ボディーは曇天の色。とにかくどんよりしてる!
そんなふうに嘘寒い感じのする中で、、女の人って、侘しい。何らかの景品(性的に役立つもの)として必要とされてるうちしか実存できないこの感じ。だだっ広いアメリカでクラッチうまく上げられなくて「やっぱり君には無理だ」とか初老から言われてるの見て、私は狭っ苦しい島国で適当に威張れてる自分の今んところの日常がありがたいような(でも、空元気に陥らないよう気をつけたいような)。。 映画の主題とは関係ないけど、女は(子供の有無に限らず)アラフィフぐらいで自分史上最美になれるよう人生を前向きに創っていかないと、根本的にキツイな、と思った。

ところで、デニス見たさの本作だったけど、ジェイムス同様最初っからキャメラ慣れしてるのが(スターだから当たり前だけども)立派で、このノンジャンル映画(けっしてニューシネマだとかロードムーヴィーだとかカーアクションだとかいう特定枠内に閉じ込めるべきじゃないと思う。唯我独尊作ってことにしようね)の品質を、そこそこ高めてる。
だけれども、まったくいつものようにデニスは表情も声も仕草も “ウィルソン家の次男坊” 以外の何者でもない、ラフでも賢そうでも楽しそうでも常にふにゃっとした感じ。ジェイムスもテイラー家の次男なんだけど、デニスより三才半も年下のジェイムスのほうが、ここではまるで兄宣言してるようなキリリな佇まい。役にハマってのことか、それともデニスは終生こんな感じだったのか、音楽ファンとしては気になるところ。

ちなみに、シャロン・テート殺害事件でチャールズ・マンソンが逮捕されてなければ、デニスこそがマンソンたちに殺されてた可能性もあった(殺害予告を実際受けてた)のが1969年。翌70年、ビーチボーイズ最後の傑作アルバム『サンフラワー』で作曲家としての才能を開花させたデニスの、特に Forever は彼の生涯最高曲と世界中から褒められつづけることになる。そんな激動的全盛期のデニスを焼きつけた貴重なフィルムでもあるのがこの映画。
ついでながら、、ビートルズ『ラバーソウル』< ビーチボーイズ『ペットサウンズ』< ビートルズ『サージェントペパー』、の戦いを華々しく制するはずだったビーチボーイズの『スマイル』(直接的には『リボルバー』への対抗作)が頓挫して音楽史にザ・ビートルズの独り勝ちが刻まれちゃった充実の怒濤の悲喜劇の60年代だったんだけど、解散前ビートルズの最終盤『アビーロード』に思いっきりぶつける雰囲気と構成をもつのが『サンフラワー』。そんな名盤中の名盤のクライマックス曲の一つとされるデニス作の Forever の71年のセントラルパークでの歌唱映像を YouTube で時々見るのも、私の楽しみの一つ。1:05あたり、デニスがマイクに口をくっつけるところなんかが特に情感的。そのあと私にほんのちょっと(23%ぐらい?)似た女性が大映しに。。。

てことで、久々に賑やかながらそれなりに重たい『サンフラワー』を丸々聴いちゃったりしたら、ますますもう全然爽快じゃなくなって、まるで海行くまでの道路渋滞が何時間も続いて未だ匝瑳や八街の西瓜売り屋が車窓に見えてこないみたく、どんよりなアートたちに老けさせられた。