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上流社会のCisaraghiのレビュー・感想・評価

上流社会(1956年製作の映画)
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久々に見るグレース·ケリー、容姿端麗とはこのことか、生身とは思えない完璧な造形…と感心しながら観ていたが、そのうち、あれ、この話知ってると気がついた。16年前のキャサリン·ヘップバーン主演の映画『フィラデルフィア物語』の、いわば音楽版リメイクじゃありませんか。となると、どうしても前作と比べながら観てしまう。

役者がケイリー·グラント36歳とジェイムズ·スチュワート32歳から、クロスビー53歳とシナトラ41歳に代わったのでは、普通に考えて新作の分が悪い。クロスビーとシナトラじゃ残念ながらクラス感が出ないし、旧作の二人に比べたらコメディアクトの軽妙酒脱さにも乏しい。そして、グレース·ケリー、その完璧な造形美ではキャサリン·ヘップバーンを凌駕しているとしても、コメディエンヌとしては敵わない。なので、お嬢が乱れて破目を外す後の方になるにつれて相対的にキャサリン·ヘップバーンに軍配が上がる。そもそも、あまりに整いすぎたグレース·ケリーの容姿は、コメディエンヌ向きではない?

旧作に敵わない部分は景気よく音楽で補強、と考えたのか、元々ミュージカル·リメイクしたかったのかはわからないが、コール·ポーターによるオリジナル曲、当時のポピュラー音楽界きっての人気歌手二人の起用、強力な援軍のルイ·アームストロング一座まで投入し、曲数は多くないが、全曲フルでじっくり聴かせる良質な音楽映画になっているのでは。グレース·ケリーも少しだけど珍しく歌ってる。ビング·クロスビーとシナトラがグレース·ケリーに向けて歌うとなれば、ロマンチックな愛の歌と自ずと決まっているので、少々展開が唐突なところも。

こんな白そうな映画でルイ·アームストロングのパフォーマンスが観られるとは思わなかったが、1954年のジェイムズ·スチュワートが主演を務めている『グレン·ミラー物語』にも出演しているらしい。クロスビーとシナトラはこれまであまり興味がなかったけれど、クロスビーの声は綿雪タオルのような心地よい耳触りだったし、おじいちゃんになってからしか見たことなかったシナトラは、渋い声に似合わずカワイかった。

あちらの舞台フィラデルフィアに対して、こちらのお屋敷があるのはロング·アイランド州ニューポート。冒頭で粗い空撮映像も登場するが、今ではGoogle Earthで鮮明な上空からと路上からの映像が見られる。お屋敷街、ではなく、十分な距離を取って緑地に豪邸が散在する形のアメリカ式富裕層の住宅地、というか邸宅地。
 この地で1954年にニューポート·ジャズ·フェスティバルを始めたのは、エレイン·ロリラードというハイ·ソサエティの女性で、グレース·ケリーは、そのエレイン·ロリラードに似ているという理由でキャスティングされたという説が本当かどうかは知らない。この映画で音楽祭の準備をしているのはディクスターで、そこにルイ·アームストロング一行が招かれているという設定。ニューポートのハイ·ソサエティとジャズとの繋がりを上手く生かした音楽映画だとは言えると思う。
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