Maki

灼熱の魂のMakiのネタバレレビュー・内容・結末

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

原題:Polytechnique
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
公開:2010年

凄まじい覚悟を
痛ましい情愛を
狂おしい赦しを観た。
 
既に語れる方々が語り尽くしているので今更なにをですけれど。
【ボーダーライン】【メッセージ】【ブレードランナー 2049】と心を鷲掴むヴィルヌーヴ作品を遡っている。「中東内戦下の女性の人生」それだけの情報で挑んだ私はもう見事に打ちのめされた。
 
“真実”は巧みに隠され僅かに示唆される。
中盤一瞬だけ頭の片隅をよぎるもすぐ失せた。
終盤パズルのピースが見つかると
「いや!それだけは絶対あってはならない!」
と血が沸いた。絶句と溜息と唸りが同時に。
 
あんなほんわか笑顔で恐るべしヴィルヌーヴ。
映画でよかった。度が過ぎるってばほんとに(*´д`)o
 
 
 
【以下ネタバレ】
 
 
 
ただ愛する男と結ばれ子を産み育てたかったナワル。その生き様は望んだものから遠く離れてゆく。誰が好き好んであの立場に身をおくものか。メディアで触れて「たいへんそう」と感じて終わりでは済まされない現実。抗えないしきたり。逆らえない血脈。宗教諸派の対立。複雑な難民事情。涙も枯れる非道。蹂躙に次ぐ蹂躙。負と暴力と呪いの連鎖。
毎日その世界で目覚め生き眠りまた目覚める。
壊れ崩れてそれでもなお立ち上がった彼女が
ついに我を失うほどに屈した忌まわしい真実。
なにもかも易々と理解できるなんて云えない。
 
それでもなお
それでもなお
ナワルは覚悟と情愛と赦しを子らに伝え託した。
 
旅立つ者が残す手紙は枚挙に暇がないが これほどまでに凄まじく痛ましく狂おしい手紙はそうそう無い。
 
ナワルは長男長女次男が真実を乗り越える力を信じた。
そして二度と逢えない長男をずっと愛し続けていたと
どうしてもなにがなんでも伝えたかったのだと想った。
負の連鎖を断ち切りたかった。断ち切れる力を信じた。
 
これがフィクションだとは承知のうえで
双子の姉弟はすぐ受け止めきれなくても
その父と兄もすぐ受け止めきれなくても
強く優しく生きる糧になるよう切に願う。

そして
幼子のころから洗脳されて戦闘機械になった長男が
いま安穏と暮らし母の手紙に狼狽し墓参りする様は
彼が人間性を回復したのか回復しつつあってほしい。
 
誰が悪いのか。
誰も悪くない。
 
Maki

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