前方後円墳

森崎書店の日々の前方後円墳のレビュー・感想・評価

森崎書店の日々(2010年製作の映画)
3.0
八木沢里志原作小説を映画化。
失恋した女性、貴子(菊池亜希子)の傷が癒され、成長していく様を神田神保町を舞台に描いている。侯孝賢監督の『珈琲時光』に雰囲気が似ているがもっとわかりやすく、映像や物語のマニアックさを感じさせない作りになっている。
仕事を辞めて何もしていない貴子が、叔父のサトル(内藤剛志)に誘われて古本屋を手伝うことになるのだが、何もないままにそのままゆっくりと彼女の傷を癒していくことができればつまらない物語になってしまうが、それはそれで数少ない作品になったのではとも思う。
どうしても彼女が自分の感情を表に出さないところから一歩成長させたかったのか、元カレの英明(松尾敏伸)のところに押しかけてしまうのは、あまりにもドラマチックだ。素朴な時間の流れが本作品の良さだとすれば、原作がそうだったとしても、その点は無視してもよかったのかもしれないと思える。荒治療のない成長を描いてほしかったのだ。また、本にまつわる人間関係がもっと欲しかった。
ただ、概ねやんわりとした展開が心にやさしい雰囲気のいい作品だった。