まりぃくりすてぃ

大いなる幻影のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

大いなる幻影(1937年製作の映画)
4.9
がっかりしない。何かが足りないようで、全然足りてる。

第Ⅰ幕  ・・・最初の収容所
心配通りにキャラが多少、私の中でごっちゃ。育ち良さげなド・ボアルデュー役(ピエール・フレネー)などは画的にすぐ埋もれたりする。
いかにも平民っぽいマレシャル役(ジャン・ギャバン)と三枚目役は特徴的なので、どうにか(やっぱり真っ先にギャバンの映えのおかげで)観やすいモノクローム。
脱出ごっこに堕しかねないチープな穴掘りを、リアリズム目線でどこまで許せるか。そしてキレある行儀良い各自の演技を、真剣な反戦意志がちゃんと裏打ちしてる?
例えば、新藤兼人監督の同じく歴史的な傑作『原爆の子』(1952年)には、老人から子役まで全出演者に「絶対、二度ともう戦争は……」の祈りが漲ってた。日本人のああいう情感とつい比べながら観ちゃう時間帯も長し。

第Ⅱ幕 ・・・最後の収容所
貴族対平民、という別の美味しい対立軸が明示され、満を持しての騎士道アシスト! 巧い、とても巧い流れなんだけど、脱出法そのものはここでもチープ。
ともかくも所長さん(エリッヒ・V・シュトロハイム)には、お疲れさまとお気の毒さまを最敬語で言ってあげたい。
 
第Ⅲ幕 ・・・逃走生活
それまで男っ気にすっかり油断させられてたからね、意表つかれた!
ここでは相棒ローゼンタールが好サポート。涙脆い自分が恥ずかしいけど、ことさらに美はないシークエンスだけど、隠し玉みたいな甘さがこんなにも嬉しい。シュトーレンとビュッシュ・ド・ノエルの邂逅、みたいなこの甘さこそが“融和軸”ね。『原爆の子』の特別さにとうとう並んだ!! 独仏はそのままチークで進みなさい。(一次の後は二次大戦があるんだが。。)
国境付近での兵士のラスト一言、もちろんイケてます。

ところで、中盤で聞かれた「22夜」とかって言葉は不思議にエロいと思った。

[川崎市アートセンター創立10周年記念配給]