shibamike

U・ボートのshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

U・ボート(1981年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ナチス・ドイツ軍視点の戦争映画を自分は初めて観た。とは言うもののナチス要素は控え目だったので自然にドイツ軍に感情移入して映画を観れた。

第二次世界大戦ではそれぞれの対戦国が恐れる強力な戦闘機が色々登場したと思う。アメリカ軍はB29、日本軍は零戦といった具合に。で、ドイツ軍では本作で登場するUボート。イギリスがこのUボートに手を焼いた。Uボートの特徴は小型であるが大量生産で数が多く、敵国の商船(戦闘用ではない船)を数多く沈没させるという、兵糧攻めに大活躍だったらしい。イギリスは極度の飢餓状況に追い込まれ、降伏を考える所まで追い詰められていたらしい。この事実を観賞後にネットで知り「そら、駆逐艦もしつこく攻撃するわ」と合点がいった。イギリスにしてみればとにかくUボートは憎き存在だったと。

そんなUボートに本作で乗船するのが30歳の艦長を初め、平均年齢19歳のヤングマン達、総員50名程度。艦長が皮肉で「子供十字軍」と漏らすが確かにそうだ。ドイツは人員が不足していたのだなぁ、と思った。最近の日本企業みたい。見終わった今では全員しっかり働いており、ちっとも子供十字軍なんかではなかったと思う。

占領下フランス港町の女郎屋での大騒ぎが冒頭にあるが「次の日、掃除大変だろなぁ…」と思わずにいられなかった。テーブルクロス引き完全に失敗してるし、絨毯にお酒ドボドボこぼすし、拳銃ブッ放してるし。赤いドレスの女性シンガーがカッコ良かった。

本作ではUボートが恐怖にさらされる度に観ているこっちもまるで乗り合わせているかのようにヒヤヒヤするのだが、その一つは「水深」である。設計上は水深90m耐圧と言いながら、いきなり耐圧テストで150mまで潜る。ギィイイー!という船体の軋む音が不気味で胃が縮こまる。「もうやめて!浮上して艦長!」と何度心で呟いたか分からない。

ティペラリーというイギリスの音楽で盛り上がったり、デカイ蝿が偉い人の肖像画をうろつき回ってもそのまま。ここら辺は戦争やナチスへの不満を表していたのであろう。みんなほとんど「ハイル ヒトラー!」って言わないし。

映画に出てくるUボートはこの映画用にほぼ実寸で作られているらしく、迫力抜群。驚くのは中がとにかく狭い。50人でトイレ1つの時点で自分は無理なのだが、ベッドも共用で毛ジラミも大量拡散する始末。お風呂も無いし。

機関室の機械も壮観。轟音で耳がつんざかれそうだが、技師達は常駐らしく聴力に障害出そう、と勝手に心配。技師のヨハンが1度だけ錯乱した際、艦長の情け容赦ない態度は考えさせられた。自分は「許したれや!」と思ったが、責任者としては厳しく対応せねばならぬということなのでしょう。命が懸かっている状況の恐ろしさ。

序盤、中々敵軍が見つけられず、イライラしていた所でたまたま見つけた駆逐艦に魚雷をブチ込もうとするのだが、この駆逐艦がまぁ強い。これ以降、駆逐艦がことあるごとに登場してはUボートを恐怖のどん底に叩き落とす。恐怖の演出が秀逸で、BGMがサワサワサワサと鳴っては自分の臓器をキリキリさせた。

潜水艦の中に居たら、どっち向いていて、敵がどこにいてとか訳が分からなくなりそうだが、艦長やみんな頭の中でイメージできているようで「はぇー凄い」と思った。船の動きは俊敏ではないし、目視確認も容易ではないため、相手の出方が咄嗟には分からないと思う。ばかしあい、心理戦というのがよく伝わってきた。

ジブラルタル海峡を正面突破するというのは実話だったのだろうか。流石に誰がどう考えても無理では…と思ったが、そんな無理なことを成し遂げないといけない状況にナチス・ドイツが追い詰められていたということであろう。案の定、Uボートは敵軍からこっぴどくヤラれる!沈むUボート。船員達の「浮かべぇっ!」の絶叫も虚しく水深は深くなる一方。「水深250mとかでヤバそうだったし、あー、死んだな。」と自分が勝手にあきらめている中、奇跡が起こる。海底(暗礁?)にぶつかったのである。水深280m。凄まじい水圧でボルトは弾丸のように弾け飛び、配管は破裂、船体は軋みに軋む。くしゃみした衝撃で無茶苦茶になるんじゃないかと臆病な自分は思ったりしたが何とか耐えるUボート。事前に爆雷の衝撃を何十発も喰らっているのにこの頑丈さ。ビックリ仰天である。

この絶体絶命の状況で従軍記者の若者が艦長に語るシーンが印象的だった。「これが自分が望んだ現実です。」と。恐らくそこまでの現実は望んではいなかったであろう。現実なんて厳しくしようと思えばどこまでも厳しくなると思った。現実は容赦ない。自分の超絶ぬるま湯の日常も現実だし、海水水深280mも現実。現実は人間の感じ方なんてお構い無しだ。

ボロボロに壊れ過ぎてもうダメかと思ったUボートであるが、機関長がウルトラ大活躍して復旧に漕ぎ着ける。無事浮上し、帰還の途につく。この時ほど喜び勇む艦長は初めてであった。

「あー、めでたしめでたし。」とホッとした自分。に容赦ないラスト。絶体絶命の状況から這い出した乗組員達が陸上であっという間に死ぬ。あれだけ頼もしかったUボートさえもブクブク沈む。悲しく見届け、息耐えた艦長。また、現実の野郎である。
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