genarowlands

ヘンリー・フールのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

ヘンリー・フール(1997年製作の映画)
3.8
ハル・ハートリー監督作品3作目。好みなのは、底辺にいる人に光を当て、誰もがもつ潜在的可能性を市井の人によって引き出していくから。カウリスマキのテイストに近いものを感じます。監督は舞台演出もしているため、本作も舞台劇のように一つ一つの会話が効いていて、戯曲を読んでいる味わいでした。(以下、好き過ぎて長文です)

ジャケットは自称詩人の放浪者ヘンリー・フールによって詩の才能を見出だされたサイモン。無口で表情なく、人生に期待も絶望もしていません。厳しい家庭環境ですが、やさぐれもせず、うつ病の母の面倒を見、毎日の清掃業のルーティンをこなし、詩を書き溜めていました。

そこに現れたヘンリー・フール。自称詩人の謎の男。型にはまることを嫌い放浪していると言いつつ、何かから逃げているかのよう。少しずつヘンリーの姿が明らかになっていきます。

社会の周辺にいる人々ばかりが登場。
コミカルな描き方ですが、リアリティーがあり、決して奇跡は起きない。キャラクターが生きていて、一つ一つのリアクションに、この人物ならこうするよね、と納得します。ストーリーありきのキャラクターではなく、キャラクターが先にあり、それぞれの人生模様が交差し、ストーリーが生まれたように感じました。人物が生きていて、これから三部作につながっていきます。

ハル・ハートリーの描く人物像は、紋切り型ではなく、人間の表裏や人生の歴史を感じさせられます。今は落ちぶれたり、やさぐれていても、かつては夢を見、自分の能力を生かそうとした時期があった。それまでの苦労や失望を言葉にせず、人間の厚みや深みを描いていて、すごいなと本作でも思いました。

お母さんがピアノを突然弾きはじめた理由と亡くなった理由も、かつて自分を信じて才能を磨いたことを物語っていました。

姉がセックス依存症になった理由は具体的には示されませんが、不在の父親との関係が他の家の関係から明らかになっていきます。それでも家庭を持てば、家族を愛する母と妻になっていく。息子の名前が監督の別名でした。

人が本来もつ健やかな生き方を信じ、振れ幅が大きくても、何かのきっかけがあれば元に戻り、自分を生きていける、そんな人間を描くハル・ハートリー監督の作品、大好きです。

そのきっかけを作るのは、本作ではヘンリー・フール。他所からやってきて、閉塞感ある人々に刺激を与える人物は他の作品でもたびたび登場します。

また、社会の変化もスパイスとして取り込まれ、移民排斥の傾向が強まっていることや、インターネットの普及で、才能を開かせるのは権威(本作では出版社)ではなく、人々であることも示されていました。

徹底して市民の味方のハル・ハートリー、戯曲に感じたので、著書を読みたくなりました。(著書や戯曲が数冊ありました)

また、音楽も監督の自作で、多彩な方です。
genarowlands

genarowlands