あきらっち

グラン・トリノのあきらっちのレビュー・感想・評価

グラン・トリノ(2008年製作の映画)
4.2
クリント・イーストウッドが俳優業のラストに選んだ本作。
タイトルの“グラン・トリノ”とは劇中の彼(役名コワルスキー)が大切にするアメ車“フォード グラン・トリノ”のこと。

退役軍人でその後フォード社の自動車工を50年勤め上げたが、今は愛する妻に先立たれ、たった一人の隠居生活だ。
子供はいるが意固地な性格故に上手くはいかない。

頑固で、周囲を睨めつけ悪態をつく。
戦争での忌まわしい経験が心を蝕み、素直になれない不器用な老人。
ハッキリ言って最初の段階では好感度ゼロ。
年老いたイーストウッドが見事に好演する。

正義の筈の戦争がもたらしたもの。
世界に誇るアメリカ自動車産業のいま。
受け入れざるを得ない現実に、それでも弱さを見せず、誇りは失くさず生きてきたコワルスキー。

隣に越してきたベトナム移民のモン族の家族に対しても悪態をつく日々。
だが、ある事件をきっかけに徐々にだが長女のスーに心を開くコワルスキー。スーは思慮深く賢く、コワルスキーの悪態の下に隠れた無骨な優しさを見抜いていた。
不器用な二人のやりとりだが、スーは粘り強くコワルスキーの心をほぐし、頼りない弟タオを一人前にして欲しいと密かに願う。

孤独であった毎日に色が付き、自然な笑顔がこぼれ出すコワルスキーであったが…

戦争は悲惨だ。
生き残る為に、
また人を助ける為に敵を殺す。
命令もされずに…

コワルスキーの心の闇はあの日から消えることはない。

弱くて愛おしい者たちを護りたい。
光と闇の中に身を置き佇むコワルスキー。
静かに、だが重厚な心理描写。
心の葛藤が観ていて息苦しくさえ感じる。

一転、ラストへかけての晴れ晴れとした表情。

同じ想いは決してさせない。
彼の決意の先にあったもの。
それはあの日の贖罪と、愛する者たちの心の安らぎ。

不器用で誇り高き男の生き様。

それはまるで、
派手さは無くとも時代を経て尚一層の存在感を放つ、あの名車グラン・トリノのよう。

スーとタオと共にいつまでも。


※名優クリント・イーストウッドと名車フォードグラン・トリノが重なり、彼の最後の舞台に相応しい、しっとりとした哀愁を感じさせるラストシーンだった。

戦争、多民族、宗教、贖罪、貧困層、犯罪、家族関係…
様々な現代の社会問題を織り交ぜ、彼の映画の意味は深い。
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