針

浮草の針のレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
3.8
小津安二郎のカラー作品。志摩半島にある小さな港町にやってきた舞台役者の一座と、町に暮らす人々との交流を描く。内容は恋愛映画でもあり、家族映画でもありといった感じ。

冒頭、港の突端に立つ白い灯台を軸にして、いろんな角度から町の景色を映していく連続ショットを以前SNSで観たことがあったので、「進研ゼミでやったことのある小津安二郎だ!」的なヘンテコな気持ちになりました。

若い男の役者たちが劇団のビラを配るかたわら町の女性を物色してまわる序盤が、妙なリビドーをたたえつつもノンビリしてるなーと思ったのですが、これがちゃんとストーリーの本筋を描いてるとは思わなかった……。ここから旅の役者と地元の人との愛憎入り混じった恋愛劇が展開していきます。

中盤に置かれた「対岸雨宿り」のシーンは圧巻。まさかここまで激しい描写があるとは序盤は全然思わなかった。ここに限らず男女関係の描写はかなり濃密。カラーの色具合も関係してる気がするんだけど全体的に妙な色気を感じる映画でした。

個人的に出てる人では一座の親方役の二代目中村鴈治郎と、奥さん役の京マチ子がいいと思う。
これは小津映画なので役者たちは例のごとく妙にのっぺりした平らな演技をしてるんだけど、京マチ子だけはそれを目ヂカラでひとりだけはね除けてる感じがする。また中村鴈治郎のほうは、しゃべってる人物を真っ正面から撮る例のカメラワークで捉えられてるシーンが多くて、最初はやっぱりちょっと違和感があるんだけど後半にいくにつれてそれがだんだん味を出してくる感じがあるなーと。

「結局自分たちは“カタギ”ではない、まともな人間ではない」という旅役者たちの自意識が、すべての人間ドラマの根底に横たわっていてそのへんはちょっとつらいものもありました。
親子の情と男女の情が絡み合うけっこうドロッとしたストーリーなんだけど、最終的には収まるべきところに収まる感じでまぁよかったなと。テンポとテンションはのんびりしてるのに内容はきわめて剣呑、というのがちょっと面白かったかな。
針