ひでやん

HANA-BIのひでやんのレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
4.5
花の命は短くて苦しきことのみ多かれど、風も吹くなり雲も光るなり_林芙美子

初見の時はいまいちな感想だったが、久しぶりに再鑑賞すると「こんなにいい映画だったのか」と思った。生と死の対比が全編通して描かれていて、バイク事故で変わった北野武の死生観が作品に大きく反映されているようだ。

先ずは地下街の銃撃戦。時系列を変えて挿入するスローモーションの惨劇がエグい。頭に一発ぶち込んだ後、さらに弾倉に残った怒りの4発をぶっ放す北野武。スローなのに一瞬の出来事に感じさせるシーンだ。終盤の狭い車内でぶっ放すシーンは思わず息を呑む。なんの躊躇いもない所がゾクッとする一方、胸がすっとする爽快ささえ感じてしまう。

妻の見舞いに行くシーンで、煙草に火を点けるタイミングで凶弾に切り替わったり、拳銃を撃ったタイミングで飛び散る絵の具の赤に切り替わったりするのがカッコイイ。たけし映画は「暴力映画」というイメージがすっかり定着してしまったが、今作で特に感じたのは、一発の銃弾でこんなにもあっけなく人間て死ぬんだな、と。タイトル通りの「儚さ」を強く感じた。

「HANA-BI」、「花」と「火」を分けたタイトルが興味深い。

「HANA」は、大杉漣。半身不随になりすべてを失った男が、絵を描く事によって「生」へと向かう。ライオンにひまわり、羊にアジサイ、花嫁に白百合など、動物と花を融合させた絵の数々。獰猛な動物も穏やかな動物も、そして美しい女性も皆、花のように儚い命である。

「BI」は、北野武。拳銃(火)をぶっ放し、「死」へ向かう。「−」(間のハイフン)はヤクザ。生も死も見つめず怖れない。と、まあ自分なりに意味をこじつけてみた。

激しいバイオレンスの「動」から、穏やかな夫婦の旅路にある「静」へ。その凪の中に今度は波風がやって来て、静に動が流れ込む。生と死は常に隣り合わせだ。病院やヤクザの事務所など、たけし自身が描いた絵が至る所にあり、出し過ぎじゃないかと思う挿入画はいつしかクセになり、生と死の中に程よく溶け込んでいた。

車椅子の大杉漣が見上げた満開の桜で「生」を、岸本加世子が瓶に入れた萎れた花で「死」を表す、その対比が良かった。

ラストシーンがヤバイ。初見の時はなぜここでグッとこなかったんだろう。幼い我が子を亡くしたショックからなのか、劇中まったく言葉を発せず静かに笑っていた岸本加世子が、ラストで声にした二言に思わず涙。言うのが当たり前だが、普段はなかなか言えない言葉。夫婦には、これさえあれば充分だと思わせる2つの言葉だった。そして空に響いた2つの音…不器用ってゆうか優しいってゆうか…愛なんだろうね。暫く余韻に浸かった。
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