Rick

ハッピー フィートのRickのレビュー・感想・評価

ハッピー フィート(2006年製作の映画)
3.6
 あるコミュニティ内で普遍的とされる「伝統」からは弾き出されてしまったとしても、絶望する必要はない。その「伝統」は、一歩外に出れば普遍ではなくなり、むしろ災いの元とされるような自らの特性が新たな対話のきっかけになるかも知れない。マイノリティ性を持つ若者の成長譚として、シンプルながらも力強いメッセージをペンギンに託した作品...
 ...ではあるのだが、「ものすごく変な作品!!」という印象が強く残る。ペンギンが踊ったり歌ったりするのは若干シュールだが、別にその手の演出にはこちらも慣れている。普通に面白いし、人間で描かれるとかなり際どい、悪趣味なシーンもあって楽しい。思っていた(舐めていた)のとは、いい意味で異なっている。しかし、変な作品なのだ。
 強いて言えば、その違和感の根源は、観客たる自分がヒトであることにあるように思う。生態としては皇帝ペンギン然としたものがありながらも、ヒト的な宗教観やコミュニティ観、心理が描かれるため、幾分か感情移入することが可能である。しかし、テーマ的に環境問題が含まれてしまう以上、どうしても最も大きな障害として「エイリアン」が出て来ざるを得ない。今作では徹底的に異物として「エイリアン」が描かれており、登場ペンギンたちと意思疎通は基本的にできない。同時に「エイリアン」は倒すべき、もしくは憎むべき存在としては描かれない。ペンギンに肩入れして「エイリアン」の横暴さや醜悪さに憤ることができず、ただヒトとして居心地の悪さを感じるだけなのだ。それが狙いなのであれば間違い無く成功しているのだが、カタルシスはなかなか感じられない。グヌヌとどうにもならない苦味を味わいながら、楽しいダンスと歌を聞く、そういう妙な体験が楽しめる。
 完全にキャスト情報を何も知らずに見たおかげで、声だけでもわかるヒュー・ジャックマンとイライジャ・ウッドにめちゃくちゃびっくりしてしまった。
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