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歩いても 歩いてものsacoのレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
5.0
是枝裕和監督作品の中で1番好き。
青空に白い雲、蝉の鳴き声が賑やかにきこえる。そして、年老いた母親がたくさんの手料理で迎えてくれる。息子や娘、孫の帰省を喜びながらも上手く伝えられずに寡黙になる父親。
生まれ育った家は、たくさんの記憶を刻みながら長い月日が流れ、タイルは剥がれ柱は古びてしまっている。けれど、そこにある物や漂う空気は、まるで時間が止まっているかのように、時を経て帰ってきた者たちの郷愁を充たしてくれる。
だけど、人は皆過ぎ行く時間や状況の中で次第に変わっていき、心は旅立って行く。
それは生きて行く限り抗えないものだと思う。

亡くなった長男の12周忌に久しぶりに家族が集まった。次男の良多(阿部寛)は子連れの妻と帰ってくるが、父親の望む生き方を選ばなかった事と、永遠に兄を超えられないという気持ちとが重なって、帰省を億劫に思っている。
母親は、長男の命を奪う原因になった男を、不慮の事故であったとしても許せないでいる。それでも、そこから始ま1泊2日は、どこにでもあるような日常会話が飛び交い、気持ちのすれ違いやちょっとした衝突を繰り返しながらも、それなりに穏やかに過ぎていく。肉親だから、つい傷つけてしまう言葉。

樹木希林の扮する年老いた母親のいろーーんな複雑な気持ちも凄くよくわかる。でも、話は決して重たくならず淡々と過ぎていくのがいい。
母(樹木希林)と娘(YoU)の言葉の掛け合いは絶妙な間合いと飾り気のない可笑しさがあり、笑った。(作っている料理がめっちゃめちゃ美味しそうだった。)

物語は、揺れ動く家族の絆のほかに、「命」の意味についても問い掛けていると思う。他人を助けるために失われた命、また、その犠牲によって救われた命。幼い息子を残して亡くなった父親の命。

「ウサギが死んだ時にどうして笑ったの?」と問われた少年は「だっておかしかったんだもん、みんなでウサギに手紙を書こうって言うんだ」「いい事じゃないか」「誰も読まないのに?」
そう問うた少年が、決して浮ついた感じではなく集まった家族の中に交わりながら、冷静に日常のゆくえを一歩引いて見ているのが印象的だった。
年老いた両親と良多の気持ちはすれ違ったまま、別れのバスは走り去っていく。けれど、これが日本のどこにでもある家族の姿なのかもしれない。まさに現代版【東京物語】だと思った。
あ、あの樹木希林の入れ歯には不意を突かれて大笑い。(笑)

DVDで再見 2017年6月
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