Ricola

巴里祭のRicolaのレビュー・感想・評価

巴里祭(1932年製作の映画)
4.2
パリ下町市民たちの思いが交差する。
フランス革命記念日、パリ祭の7月14日。
ひと夏の淡い恋とその後の行く末における、若者たちの心の機微が美しい音楽にのせて描かれている、素敵な作品だった。


物語はパリ祭の前日から始まる。
お祭りで人々が浮かれ気味の空気感に、ワクワクする。

広場で人々は踊るけれど、演奏が何度も中断してシラケてしまう。
というのも、ウェイターがオーケストラの人たちにお酒を演奏中に届けてしまうからだ。そんな自由奔放さもかわいい。

運の悪いスリたち、
三角関係の修羅場を期待するアパートのおばちゃんたち、
ヒゲとメガネのおじさんのところの妻と子供たち、
かわいい犬トトを連れているタクシー運転手、
酔っぱらうとおかしくなっちゃう裕福な老紳士など…
個性豊かな脇役たちが、恋人たちの関係性や、パリの街を彩り、物語に深みとユーモアをもたらしてくれる。

窓から窓へとショットが繋がるのが何とも自然。
窓際とは、人々のコミュニケーションの場でもあり、一人感傷に浸る場でもあるのだ。
ただ部屋の中から、もしくは部屋の中での人物の様子を映すよりも、ずっとロマンチックかつ、絵画的ショットとなり、美しい。

やはりルネ・クレールは歌を作品の中で重要視しているのだとわかる。
歌とともに時間の流れと状況の変化を簡潔に伝えるのだ。
それはミュージカル的というより、おとぎ話の吟遊詩人的語り、ナレーションの挿入のような役割といえるだろう。

雨は恋の訪れを表すモチーフのようだった。
「雨降って地固まる」ということわざの通り、雨はこの作品において物語のキーとなる。

冒頭のシークエンスと、ラストに向かうシークエンスが、同じようなショットの連続であるが状況が異なるという、うまく繰り返しを用いた演出であった。
それによって、ストーリーを理解しやすいと同時に、ラストでより主役の若者たちの存在感が浮き彫りになる。

おとぎ話のような、夢のあるかわいくて優しいストーリーと、あたたかな眼差しによる鋭い洞察力によって生まれる、全ての登場人物たちのリアルさとお茶目さが、たまらなく愛おしい。

良い意味でのストーリーでの大雑把さと、細やかな気遣いによる現実味を帯びた人物たちと街といった、バランスの絶妙さがこの作品だけにかかわらず、ルネ・クレール作品の醍醐味であると思う。
Ricola

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