くろねこヤマ子

残菊物語のくろねこヤマ子のレビュー・感想・評価

残菊物語(1939年製作の映画)
4.3
奥ゆかしさと品の良さ。

日本の美しいところが
画面から滲み出ている、
感慨深き豊かな作品。

未熟で甘ちゃんの役者が
献身的な女性に支えられ、
芸も精神も成長してゆく物語。
そこに階級差有。

家柄の異なるふたりのラストは
お決まりのもの。

けれど湿っぽさだけでなく、
華やかさを含んで幕は降ろされる。
大作を観た満足感。

素晴らしきはワンシーンワンショット。
いくつも出てくる横移動の長回し。
歌舞伎を意識しての
カメラワークだったりするのかな。

人物を捉えた
クローズアップが殆どない。
それが却って今、新鮮。

ロングショットのフレームサイズは
視点が遠く、
顔に浮かぶ感情は読み取り難い。
しかしそれ故ヒロインお徳の
可愛らしい声に耳を澄ます事になるし、

彼女の全身から漂う柔らな佇まいが
表情なくとも情感を
たっぷりと伝えてくれる。

歌舞伎シーンのあの長さは、
菊之助のこれまでの苦悶苦闘を
胸の中で振り返り、
感慨深く思う
観る手にとっての良き時間。

なんか色々完璧だな。

ヒロインが尽くすだけの女でなく、
彼を大成させるため
並々ならぬ覚悟とプライドを持ち、
そして信じ続けるその気持ちを、
さりげなく描いているところあたり
「赤線地帯」よりも
いいなぁって思いました。