エディ

地獄の英雄のエディのレビュー・感想・評価

地獄の英雄(1951年製作の映画)
4.3
勤務態度が悪いので一流新聞社をクビになり地方の三流新聞社の記者をしていた主人公が、功名心のために洞窟に閉じ込められた人の救出を先延ばしにして大事件化させるという、メディアの嫌らしさや功名心を辛らつに描いた映画。ビリー・ワイルダーにしてはコメディ色がなく、金や出世のために速やかに救助されるべき人をないがしろにするサマをシニカルに描いている。

小さな町の小さな新聞社に職を得ている記者テイタムはかつては名だたる新聞社の凄腕記者だったが、勤務態度が悪かったので各社をクビになり、流れ着いて今の職に甘んじているが、いつか特ダネを掴んで記者のスターダムにのし上がろうと虎視眈々としていた。そんなある日、宝探しをしているレオという男がインディアンの掘った深い洞窟奥で落盤に遭い生き埋めになる事件が勃発する。たまたま近くに居たテイタムは、命がけで現場まで行き直ぐにレオの元まで駆けつけ写真を撮って報道、事件は全米に注目を浴びることになった。
事件が直ぐに収束すると困るテイタムは、レオの命が一分一秒を争う事態にも関わらず救出作戦の時間をかけさせ、救出までの時間を稼ぎ、その間の報道を独占しようと試みる。。。

被害者家族を逆なでするような取材や、売れれば何をしても良い的な傲慢なテイタムの姿勢は、今のジャーナリズムにも通じると思う。事件は極端化されているが、この映画で描かれている事はメディアの暗部を鋭く突いていると思う。なので、見ていると実に腹立たしい。
レオの命が蝕まれていくのに、時間をかけて壮大な救出作戦にしようとしたり、この事件をきっかけに政界にデビューしようと目論むものや、生き埋め現場の入場料を取るレオの妻、事件現場周辺で便乗ビジネスを企てるものなどが憎憎しいまでにリアルに描かれている。

結果は想像できる通りの事態になってしまうが、この映画のすごいところは単なるメディア批判ではなく、生き埋め事件を通して、現在の状況から抜け出たいと思っている人たちの欲望を見事に表現しているのだ。
埋もれているのはレオだけでなく、能力があるのにNYなど大都市メディアから追放されたテイタム、田舎町でなくNYでショービジネスに転じたいと願っているレオの妻などもみな埋もれていて、脱出しようと必死になっているのだ。

実に、外道な連中ばかりを描いているけど、今の世界でも十分に通用する見事な描写だ。

なお、この映画も邦題が激しくミスリーディングをしていて、原題「Ace in the Hole」は(ポーカーの)手のうちにあるエースといった意味合いで、せっかく手にした切り札を利用しない手は無いという意味で映画のワンシーンに出てくる。
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